2003年2月15日発売
完全な密室で発見された残虐な刺殺体。周囲のぬかるみに足跡も残さず消えた犯人。そして現場の床に整然と敷き詰められた赤い紙の謎。幾重にも重なる奇怪な状況に警察は立ち往生するが、小二の御手洗少年は真相を看破する。表題作ほか名探偵・御手洗潔の幼少期を描いた「鈴蘭事件」収録。ファン垂涎の一冊。
女性の身でオレンジ郡保安官事務所の殺人課を仕切る巡査部長マーシ・レイボーンには、試練の事件だ。保安官事務所の身内であるアーチー・ワイルドクラフト保安官補の自宅で惨劇が起きたのだ。妻のグウェンがバスルームで射殺され、アーチー自身も頭部に銃弾を受けた人事不省の状態で発見されていた。状況から見て、妻を射殺したアーチーが自らにも銃口を向けた無理心中事件と思われる。しかも彼ら夫婦は身分不相応の邸宅に住み、収入以上の生活を送っていた。経済的に追い詰められたアーチーが、覚悟の行動を起こしたのだろうか?だが、マーシは割り切れないものを感じる。状況に不自然な点が多過ぎるうえ、周囲の語る事件前の夫婦の生活からは事件の前兆すら嗅ぎ取れないのだ。やがて昏睡から覚めたアーチーは記憶の一部を失っており、自らの無実を語ることも出来ない。マスコミの圧力が高まり、マーシの疑惑をよそにアーチーの起訴を急ぐ検察局。だが彼女は事件の陰に大きな闇の存在を感じはじめていた-『サイレント・ジョー』でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を獲得した著者が放つ、最新傑作。
福井市の南西、南北に細長い谷に四百年前の遺跡が眠っていた。戦国大名・朝倉氏がここ越前一乗谷に五代百年に亘って文化と芸術の華を咲かせた城下町跡である。天正元年(一五七三)朝倉氏は織田信長に滅ぼされ、一乗谷は灰燼に帰す。しかし朝倉義景は、四年に及ぶ戦いの中で信長を苦しめた男だった。本書は敗者の側から歴史を描いている。これまで朝倉義景は、学問芸術にうつつを抜かした凡愚な武将としてしか描かれてこなかったが、平和な時代ならば名君と評価されたはずである。その義景が戦国という時代に何を思い、何を望んでいたのか。そこに勝者の側からだけではわからない人間の哀歓を描くとともに、遺跡とともに埋もれた歴史の実相を探る。