2003年2月7日発売
徳川旗下の武将・水野忠重の嫡男勝成は、十六歳の時遠州高天神城での初陣で手柄を立てた豪勇の士であったが、ささいなことで人を斬り出奔。豊臣秀吉、佐々成政、黒田長政に仕えた後、関ヶ原の合戦前に徳川家に帰参する。その男の意地を貫き通した爽快な一生を描いた表題作の他、珠玉の短篇9本を収録。
「半どのに、会いとうて、ここへ来た…」はじめて女の体を教えてくれた於蝶と再会した半四郎。二人の忍びの交わりは戦場に熱く燃える。が、ただ独り信長の首を付け狙う於蝶との愛撫は、立場の違う半四郎の運命を変えてゆく。信長の小谷城攻めのさなか、決死の忍び働きに出た二人はかつての味方に包囲され散り散りになるが…。
於蝶とともに信長の本陣を襲ったあの夜、半四郎は織田軍の中を必死に逃げのびた。五年余、かつて自分を弟のように扱ってくれた鳥居強右衛門にめぐりあい、織田・徳川の前衛として孤立した長篠城に立て篭る。信長を討つことに執念を燃やす於蝶はどこかで生きているのだろうか。於蝶の悲願も空しく、天正六年、安土城は完成した。
信長の対抗勢力は次第に駆逐されつつある。於蝶の胸に密かな決心が湧きあがった。高遠攻めの本陣で、信長の長男、信忠はふとめざめた。(女忍びか…おれの寝首を掻きに来た)一瞬、於蝶の呼吸はおもわずゆるんだ。織田信忠は類い稀な美貌であった。信忠の手が於蝶の下着にふれる…。天下動乱をよそに女忍びの血はせつなく騒いだ。
戦争文学の「幻の名作」として本篇ほど長く文庫化が待望された作品はない。中国雲南の玉砕戦から奇跡の生還をし、郷里で老いてゆく二人の兵士。戦争とは何か。そして国家とは?答えられぬ問いを反復し、日々風化する記憶を紡ぎ、生と死のかたちを静謐に語る。この稀有な作家でなければ到達しえなかった清澄な文学世界である。
無類の刀好きだった秀吉は膨大な量の名刀を収集していたが、中に「にっかり」という不思議な名と由来をもつ一腰があったー。古来、刀は武器としてのみならず邪を祓い、身を守護すると信じられた。ゆえに、武将たちは己の佩刀に強いこだわりを抱いた。知将、猛将と謳われた武人たちと名刀との不思議な縁を描く傑作短篇集。