2007年12月6日発売
明治十六年生れの死刑確定囚がいた。とんでもない長寿日本一に大騒ぎの表題作。六十五歳に達した日本男児には全て勃起能力テストを受けさせるET法が制定されて…(「エレクションテスト」)。とてつもない面白さ。くだらぬ虚飾に火をつけて灰にし、野坂昭如の小説はここまで到達した。各紙で絶賛された短篇集。
文久二(1862)年四月二十三日、伏見の船宿・寺田屋の二階。長州と手を組んでクーデターを謀る薩摩誠忠組の動きは、長州嫌いの久光の怒りを買った。蹶起中止を説得する使者との間に朋友相討つ惨劇が起る。武士にとって藩命と理想、君命と朝命はいずれが重いか、この時点でこれは答えの出ない命題だった。
土地からたちのぼる綺想、生きることのたくましさとおおらかさ。大人のユーモア漂う短篇の名手の代表作をデビュー30年を機に精選。「鍋の中」(芥川賞)、「百のトイレ」「白い山」(女流文学賞)、「真夜中の自転車」(平林たい子賞)、「蟹女」(紫式部文学賞)、「望潮」(川端康成文学賞)など、さまざまな味わいをお楽しみ下さい。
今多コンツェルン広報室の杉村三郎は、事故死した同社の運転手・梶田信夫の娘たちの相談を受ける。亡き父について本を書きたいという彼女らの思いにほだされ、一見普通な梶田の人生をたどり始めた三郎の前に、意外な情景が広がり始めるー。稀代のストーリーテラーが丁寧に紡ぎだした、心揺るがすミステリー。
父を平治の乱で失した源頼朝は、鎌倉幕府を開くまでに、叔父や従兄弟たちと骨肉の争いを続け、実弟の範頼、義経までをも死に追いやる。血に塗れた源氏の棟梁たる地位は、頼朝だけでなく頼家、実朝と、次代にもその血を求めた。鎌倉時代を描いて当代随一の著者による源氏四代に亘る血のつながりを綴る傑作歴史小説短編集。
いつも束の間の逢瀬しかできない2人。年末の一日、初めて過ごした2人だけの長い時間。鍋を準備して、「おかえり」「ただいま」と言い合って(「冬一日」)。ショウコさんと旅に出る。電話の最中に「なんかやんなっちゃった」と声が揃ってしまったのだ(「春の虫」)。いつか別れる私たちのこの一瞬をいとおしむ短篇集。
妻と幼い息子を連れた筒井は、むかし一緒に暮らしていたその人と、偶然バーニーズで再会する。懐かしいその人は、まだ学生らしき若い男の服を選んでいた。日常のふとしたときに流れ出す、選ばなかったもうひとつの時間。デビュー作「最後の息子」の主人公のその後が、精緻な文章で綴られる連作短篇集。
わたしは仕事以外になにもない、さっぱりとした日常をいたく気に入っていたはずだったー二十八歳にして処女、仕事ひとすじの奈津美に訪れた予想外のモテ期。三人の男を前に、はたして彼女は、棒に振ってしまった思春期を取りもどすことができるのか。愛すべき恋愛音痴のための可笑しくて、やがて切ないラブストーリー。