2007年7月31日発売
父と娘のあいだに横たわる秘密と、人生の黄昏にある男女の濁りない情愛。ミス・カサブランカとよばれる独身教師の埋めようのない心の穴。反対を押し切って結婚した従兄妹同士の、平らかではない歳月とその果ての絆。-人生の細部にあらわれる普遍的真実を、驚くべき技量で掬いとる。北京生まれの新人女性作家による、各賞独占の鮮烈なデビュー短篇集。第1回フランク・オコナー国際短篇賞受賞!PEN/ヘミングウェイ賞受賞。ガーディアン新人賞・プッシュカート賞受賞。New York Times Book Reviewエディターズ・チョイス賞受賞。The Best American Short Stories2006収録。グランタ「もっとも有望な若手アメリカ作家」2007選出。
何かが記憶の底で閃いた。あの果てしなく深いプールの底で見たものは、こんな感じに似ていたっけ…。「それが、あなたを引きずり込んだものの正体?」結子は立ち上がって、白い木蓮を見つめながら言った。「その白い花のようなものは、向こうの世界に行きかけた僕を、そっとこちらに押し戻してくれたような気がするんですよ。あの花を見なかったら、僕は…」木蓮を木恋と書いた人…(『木蓮忌』より)。命こそ絶ゆとも絶えめ、定めなき世の常ならぬ仲の契りを。狂気と享楽、愛と幻想の世界へ。
内科医の月島は恋人の医師、真咲と別れた淋しさから、野性的な色香を漂わせた行きずり男と激しい一夜を過ごす。互いに素性も明かさぬままの一晩限りのエクスタシー…だが、それからほどなくして、月島はその男が近所に開業した整形外科医院の院長、氷室だと知ることに…。白昼の診察室…淫靡に張り巡らされた氷室の愛欲の罠に、月島はたちまち絡めとられていく。甘美な駆け引きに乱れるドクターたち。書き下ろし。
明治時代ー留学先のドイツで知人に騙され、闇市に売られてしまった公爵家次男の陸軍少尉、晴彦。彼を買ったのはサリジタール王国の第四王子ファイサルだった。狙った獲物は決して逃さぬ、黄金色の鷹の瞳をもつ王子ファイサルは、その夜のうちに晴彦を自国へと連れ去る。妾妃としての屈辱的な責めの数々に、自尊心を打ち砕かれながらも晴彦は…。内紛に揺れる灼熱の王国…狂い咲く妖艶エロス書き下ろし。
20世紀イランを代表する大作家サーデグ・ヘダーヤトが、第二次大戦前後の激動のイランにあって、時代の波に翻弄されつつ、ときにリアルに、ときには表現主義的に、ときには風刺的に、またときには内省的、哲学的に時代の諸相を描いた珠玉の選訳十篇。