2008年1月1日発売
生温い水のようなホーチミンの男。乾いた風のようなソウルの男。夜のネオンのような東京の男。三つの都市で私を待つ、三人の愛人。それぞれに異なる性愛の味。果てしない快楽の三重奏に溺れていく私。そして、可愛がられることに慣れた男たちが、もっと多くを望むようになってー。男という触媒によって高まる、灼けるような欲望と甘やかな母性。女のエロスの表裏を濃密に描く官能小説。
金と力のある男の欲望を受け止めてやるのは、若く美しい女の義務なのだ。私はそれに忠実だっただけー。「地上げの帝王」と呼ばれた不動産会社社長の愛人を経て、女優を妻に持つ有名レストランの御曹司を虜にし、狂乱のバブル期の伝説となった女性、アッコ。彼女は本当に「魔性の女」だったのか。時代を大胆に謳歌し、また時代に翻弄された女性を描く、煌びやかで蠱惑的な恋愛長編。
永遠に私の前から姿を消してしまった洋一のことを、結婚を控えた今、しきりに思い出すのはなぜだろう。大学時代、決定的な関係を避けて、あやふやに別れた彼との木漏れ日のように温かな記憶(「ドイツイエロー」)。孤独な魂が響き合い、その一夜だけを共にした男が私に刻印した言葉の響き(「いつか、マヨール広場で」)。今でも忘れられない追憶の中で、密やかな調べを奏でる四つの恋愛短編。
亜美は3人姉妹の長女。高校時代両親が離婚、妹は自殺し父は堕落していく。そんな境遇の中、亜美は絵画の制作に一筋の光を見いだすが…。愛と居場所を求めつつも、いつしか母を恨んで、その憎しみから、母や、愛した男に対しても亜美は背信行為にはしる。絶望的な最期を遂げる亜美だが、一筋の光を生み、残す。愛と骨肉の物語。
元盛岡藩南部家の剣術師範、十時平蔵。深川にある道場の主におさまっているが、若殿に嫌われ、藩から追われた苦い過去があった。困った人を見ると、せっこ(お節介)を焼かずにはいられない平蔵は、今日も自ら事件に首を突っ込んでいく。中西派一刀流の秘技「おぼろ返し」を揮う剣の達人でもある心優しき道場主と、平蔵を取り巻く人々がおりなす、江戸下町の人情あふれる時代劇。