2009年4月10日発売
和人によるアイヌ民族迫害の歴史を、誇り高き部族長の裔・コシャマインの悲劇的な人生に象徴させ、昭和十一年、第三回芥川賞を受賞した、叙事詩的作品「コシャマイン記」を中心に、棄民されていく開拓民の群像と、そこでの苦闘に迫る「ナンマッカの大男」「ニシタッパの農夫」など、北海道を舞台とした初期作品九篇を精選。アイヌと下層農民を描くことで、民族的連帯を模索した稀有なる試み。
生涯、二万に及ぶ発句。稀代の俳諧師、小林一茶。その素朴な作風とは裏腹に、貧しさの中をしたたかに生き抜いた男。遺産横領人の汚名を残し、晩年に娶った若妻と荒淫ともいえる夜を過ごした老人でもあった。俳聖か、風狂か、俗事にたけた世間師か。底辺を生きた俳人の複雑な貌を描き出す傑作伝記小説。
清の八十翁・松齢の庭に突如咲いた一茎の黒い花。不吉の前兆を断たんとしたその時に現われたのは(黒色の牡丹)。人間稼業から脱し、仙人として生きる修行を続ける小角がついに到達した夢幻の世界とは(睡蓮)。作家「司馬遼太郎」となる前の新聞記者時代に書かれた、妖しくて物悲しい、花にまつわる十篇の幻想小説。
博多・香椎海岸で発見された、某省の課長補佐と料亭の女の死体。一見して疑いようのない心中事件と思われたが、その裏には汚職をめぐる恐るべきワナが隠されていた。時刻表を駆使した精緻なトリックと息をのむアリバイ崩し。著者の記念碑的作品となったトラベル・ミステリーが、風間完画伯の挿画入りであざやかによみがえる。
地方都市にある高校で、ウリをやっているという噂のために絡まれていた琉璃を、偶然助けた上級生の周子。彼女もまた特殊な能力を持っているという噂により、周囲から浮いた存在だった。親、姉妹、異性…気高くもあり、脆くもあり、不器用でまっすぐに生きる十代の出会いと別れを瑞々しく描いた傑作青春小説。
才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり…。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。