2010年8月3日発売
夏の夜届いた“少年電気曲馬団”への招待状に誘われ、ぼくはお台場へと向かっていた。しかし、遊覧船は知らぬまに“日付変更線”を超え、船で出会った紺という名の少年と二人、時をスリップしてしまう。やがてぼくらは、東京タワァ完成祝いの点灯式を見にいくのだが…単行本を大幅改稿。空中電氣式人形の秘密が、今明らかに。
華やかな夜の街で、金持ちの男女に求められるまま、体を売るヒカル。彼の美しさに魅了されたヒムロは、自分の奴隷にならないかとヒカルを誘う。監禁、過酷な調教…やがて肉体に手を加えられ、ヒカルはどの女よりも美しい乳房とペニスを持った完璧な両性具有者になるのだが…全選考委員を震撼させ、第30回文藝賞佳作となった衝撃作。
この春、美大を出てOLになった喜多川春子。なれない仕事に奮闘する春子だが、会社が終わると相変わらず大学の友人とデザインを続けたり、男友達にふられたりの日々。ようやく仕事にもなれた頃、社内にリストラの噂がでて、周囲が変わり始める。一方、昼休みに時々会う正吉が気になり出した春子にも小さな心の変化が訪れて…新入社員の10ヶ月を描く傑作長篇。
柔らかい土をふんで、あの人はやってきて、柔らかい肌に、ナイフが突き刺さるー逃げ去る女と裏切られた男の、狂おしい愛の物語。ジャン・ルノワールの映画『牝犬』、それをリメイクしたフリッツ・ラングの『スカーレット・ストリート』をはじめ、さまざまな物語と記憶の引用が織りなす至福のエクリチュール。巻末に解題著者インタビューを掲載。
17歳も年上の兄・朋彦に引き取られることになった史生。兄が教師を勤める学校に転校した彼は、そこで朋彦を慕う二人の少年に、少々手荒な歓迎を受ける。朋彦を自分だけの兄にしたいのだという彼らに、次第に史生は心を通わせるようになって…限られた時を生きる十四歳の少年たちの心の交流を描いた、感動の名作。
「私は、この六月に、オランダ人の若い女性を殺し」…殺人事件の犯人から届いた手紙に導かれ、作家は巴里へ。滞在期間は七日。妄想と現実が綾なす虚構空間に事の次第が浮び上がるも、主人公は依然迷宮を彷徨う。果して出口は見つかるのか。第88回芥川賞受賞作と、その後日譚「御注意あそばせ」を収録した完全版。
少女の日の美しい友との想い出、生き別れた母との突然の邂逅、両親を亡くした不遇な姉弟を襲った悲劇…花のように可憐な少女たちを美しく繊細に綴った感傷的な物語の数数は、世代を超えて乙女たちに支持され、「女学生のバイブル」とまで呼ばれた。少女小説の元祖として、いまだ多くの読者を惹き付ける不朽の名作。
女学校中の憧れの的である下級生を思慕するあまり苦悩する少女、美しく志高い生徒と心通わせる女教師、実の妹に自らのすべてを捧げて尽くした姉…可憐に咲く花のような少女たちの儚い物語。「女学生のバイブル」と呼ばれて大ベストセラーになった、乙女たちの心に永遠に残る珠玉の短篇集。
七つめの感覚である第七官ー人間の五官と第六感を超えた感覚に響くような詩を書きたいと願う、赤いちぢれ毛の少女・町子。分裂心理や蘚の恋愛を研究する一風変わった兄弟と従兄、そして町子が陥る恋の行方は?読む者にいまだ新鮮な感覚を呼び起こさせる、忘れられた作家・尾崎翠再発見の契機となった傑作。
「それは“岸辺のない海”と名づけられるだろう。永遠に欠如した永遠に完成することのない小説を、彼は書きはじめるだろう」-孤独と絶望の中で、“彼”=“ぼく”は書き続け、語り続ける。十九歳で鮮烈なデビューをし問題作を発表しつづけてきた、著者の原点ともいえる初長篇小説を完全復元。併せて「岸辺のない海・補遺」も収録。
世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょー二〇歳の知寿が居候することになったのは、二匹の猫が住む、七一歳・吟子さんの家。駅のホームが見える小さな平屋で共同生活を始めた知寿は、キオスクで働き、恋をし、時には吟子さんの恋にあてられ、少しずつ成長していく。第一三六回芥川賞受賞作。短篇「出発」を併録。
高校三年生の夏、ひとりの少女がある弱小芸能事務所のオーディションに合格し、芸能界への切符を手にした。後のトップ女優・鳥居水香の誕生。しかし、憧れの世界に入った彼女の前には、想像を絶する現実が立ちふさがっていたのだ…。芸能プロダクション社長にしてノワール小説の鬼才が放つ、芸能界騒然の問題作&ベストセラーがついに文庫化。
「この物語は全部の物語の続編だ」-親に捨てられ、行き場を失った少年と家出少女、リストラされた中年男。世間からはみ出してしまった3人のハルが世界を疾走する。乱暴で純粋な人間たちの圧倒的な“いま”を描き、話題沸騰となった著者代表作。表題作に加え、「スローモーション」「8ドッグズ」を収録。
チョッキを着て時計を手にしたウサギが急いで走って行きます。よく考えれば、これはおかしなできごと。アリスの好奇心はいたく刺激され、ウサギの後を追い、ウサギに続いて穴に飛びこみます。深い深い穴に…。ここからアリスの果敢な冒険がはじまります。アリスの行く手には、姿を消すことのできるチェシャー猫や、おかしなことばかりしゃべりまくる帽子屋と三月ウサギ、やたら首をチョン切れと命じるハートの女王等々、おそろしげなキャラクターも出てきます。でもアリスはへこたれません。それどころか、アリスの目はいきいきと輝いてくるのです…。
「赤頭巾ちゃん」にしても「眠れる森の美女」にしても、本来は血なまぐさくて荒々しく、セクシャルで残酷な民話だった。ペローの童話はその味わいを残しながら、一方では皮肉な人間観察や教訓にみち、童話文学の先駆的作品となった…この残酷で異様なメルヘンの世界を、渋沢龍彦はしなやかな日本語で甦らせた。独特の魅力あふれる片山健の装画をそえておくる決定版ペロー童話集。
美徳を信じたがゆえに悲惨な運命にみまわれ不幸な人生を送るジュスティーヌの物語と対をなす、姉ジュリエットの物語。妹とは逆に、悪の哲学を信じ、残虐非道のかぎりを尽しながら、さまざまな悪の遍歴をかさね、不可思議な出来事に遭遇するジュリエットの波爛万丈の人生を物語るこの長大な作品は、サドの代表作として知られ、サドの思想が最も鮮明に表現された傑作として知られる。
妹ジュスティーヌとともにパンテモンの修道院で育ったジュリエットは、悪徳の快楽をおぼえ、悪の道へと染まってゆく。パリで同好のさまざまな人物と交わり、イタリアへと逃げおちた彼女は、背徳の行為をくり返し、パリへと帰る…。悪の化身ジュリエットの生涯に託してくり広げられる悪徳と性の幻想はここに極限をきわめ、暗黒の思想家サドの最も危険な書物として知られる傑作幻想綺譚。