2012年8月発売
妻を看取って十余年、人生の行き止まりを意識し始めた嶺村浩平は、古いトランクからかつての大学のゼミ仲間・瀬戸重子の若々しい写真を見つける。そして甦る、重子と一度きりの接吻を交わした遠い思い出。思わぬ縁で再会した重子の勧めで、七十代にして初めて携帯電話を持った浩平は、秘めた想いをメールに込めるが…。恋に揺れる、老いの日々の戸惑いと華やぎを描く傑作小説。
結婚すれば世の中のすべてが違って見えるかといえば、やはりそんなことはなかったのだー。互いに二十代の長く続いた恋愛に敗れたあとで付き合いはじめ、三十を過ぎて結婚した男女。不安定で茫漠とした新婚生活を経て、あるときを境に十一年、妻は口を利かないままになる。遠く隔たったままの二人に歳月は容赦なく押し寄せた…。ベストセラーとなった芥川賞受賞作。
ギリシア神話にしか登場しなかった伝説のトロイア。しかし、その伝説を信じ、ついにはトロイアの都が実在していたことを証明してみせた男ーシュリーマン。18か国語を操り、巨万の富を築いた実業家でありながら、どんな環境におかれても希望を見失わず、トロイア発掘の夢を追い続けた人物の情熱的な生涯をつづった自伝を漫画化。
男友達もなく女との恋も知らない変わり者の中年男・本田の心を捉えたのは、レズビアンの親友・七島の女同士の恋と友情。女たちの世界を観察することに無上の悦びを見出す本田だが、やがて欲望は奇怪にねじれー。濃く熱い魂の脈動を求めてやまない者たちの呻吟を全編に響かせつつ、男と女、女と女の交歓を繊細に描いた友愛小説。『親指Pの修業時代』『犬身』で熱狂的な支持を得る著者5年ぶりの新作。著者26歳の時に書かれた単行本未収録作も併録。
『テーラー・えのきだ』でスーツの仕立てに心血を注ぐ榎田。そしてそんな榎田を今夜も淫靡な世界へと誘う芦澤。一見何事もなく過ぎる日々。だが、一人の中年刑事が木崎と諏訪の関係…木崎の組への裏切り行為に気づいたことで、破滅へのカウントダウンが始まる。諏訪が組に捕らわれ、今度はその人質交換として木崎が榎田と優香を攫う。一方で木崎の殺害を命じられる芦澤。八方塞がりの闇の中、一発の銃声が響き…。