2013年10月23日発売
高貴中の高貴薬といわれるのが、「紫雪」である。まさに秘薬であった。医薬の研究者なら一度は目にして、できれば口に含んでみたいと熱望する名薬である。口中に投じれば淡雪のように融けるという。そこから、「雪」の字が当てられていた。用いる生薬類も入手困難のうえに高額で、製法に高度な技術を要するので、当時、製剤は事実上、不可能だった。中国から輸入され、唯一、正倉院に所蔵されているだけである。奥医師ですら現物を見た者はいない。幻の薬である。その幻の薬を家康は欲したのではないか。医典籍を渉猟し、みずからも製剤するまでに医薬に長けた家康だからこそ、正倉院に幻の薬を発見して入手を思いたったといえる。家康は単なる好奇心だけで「紫雪」を探したのだろうか。
九州を平定し、荒廃した博多を最後に復興した秀吉には、大明国制覇の野望があった。大陸との交易で栄えてきた商人として、対馬の宗氏とともに戦火を交えぬための工作をした宗室だったが、秀吉は息子鶴松の死をきっかけに朝鮮出兵を決断。宗室は石田三成に密かに呼び出される。名だたる戦国武将たちと渡りあいいくさなき世を求めた、気骨溢れる商人を描く。
精神病院で受けた絵画療法によって絵の才能が開花した青年を巡る、病院関係者たちの心の闇を書簡形式で綴るミステリ「火焔樹の下で」、隣室をのぞき見た孤独な娘を誘う異様な遊戯とその結末を語る「密室遊戯」のほか、初文庫化に際し、閉鎖的な地方に生きる少年少女の倦怠と残酷を幻視的な筆致で描き出した「バック・ミラー」など3篇の単行本未収録作を附した16篇を収める。
地の民を治療する医術の匠を目指すことにしたダグは、“新月湖”駐留地に基礎継ぎの匠がいるとの噂を聞いたフォーンに勧められ、教えを乞おうと決意する。果たして湖の民と地の民の夫婦は歓迎してもらえるのか?弟子入りを志願してきたダグに基礎継ぎの匠は戸惑いを隠せない。ふたつの民族の融和に奔走するダグとフォーンの奮闘を描く、ビジョルドのファンタジー四部作完結。
“新月湖”駐留地の基礎継ぎの匠への弟子入りを許されたダグ。妻のフォーンも元警邏員の若者たちも、安住の地を見いだしたかにみえた。だが地の民の子どもをダグが治療したことから、再び駐留地を出て行く羽目に。驚いたことに師となった基礎継ぎも一緒に来てしまう。平和な旅も束の間、一行の前に悪鬼の影が。数少ない警邏員で、恐ろしい悪鬼に立ち向かうことができるのか。