2014年5月28日発売
父と子。男と女。人は日々の営みのなかで、あるとき辻に差しかかる。静かに狂っていく父親の背を見て。諍いの仲裁に入って死した夫が。やがて産まれてくる子も、またー。日常に漂う性と業の果て、破綻へと至る際で、小説は神話を変奏する。生と死、自我と時空、あらゆる境を飛び越えて、古井文学がたどり着いた、ひとつの極点。濃密にして甘美な十二の連作短篇。
ヒト、密書、スーツケース。夜な夜な「よからぬもの」を運ぶ舟頭。雨上がりの水たまりに煙突を視る会社員。漂着した島で船に乗り遅れる女。私はどうしてここにいるのか。女房を殺したような、子どもの発話が遅れているような、金魚が街に溢れている、ようなー。流転する言葉をありのままに描き、読み手へと差し出した鮮烈のデビュー作。芥川賞受賞前夜の短篇「家路」を同時収録。
道東・釧路で『ホテルローヤル』を営む幸田喜一郎が交通事故で意識不明の重体となった。年の離れた夫を看病する妻・節子の平穏な日常にも亀裂が入り、闇が溢れ出すー。彼女が愛人関係にある澤木とともに、家出した夫の一人娘を探し始めると、次々と謎に直面する。短歌仲間の家庭に潜む秘密、その娘の誘拐事件、長らく夫の愛人だった母の失踪…。驚愕の結末を迎える傑作ミステリー。
元捜査一課の女刑事・魚住久江、42歳独身。ある理由から一課復帰を拒み、所轄で十年。今は練馬署強行犯係に勤務する。その日、一人の父親から、子供が死亡し母親は行方不明との通報があった。翌日、母親と名乗る女性が出頭したが(「袋の金魚」)。女子大生が暴漢に襲われた。捜査線上には彼女と不倫関係の大学准教授の名も挙がり…(「ドルチェ」)。所轄を生きる、新・警察小説集第1弾。
団体戦略が勝敗を決する自転車ロードレースにおいて、協調性ゼロの天才ルーキー石尾。ベテラン赤城は彼の才能に嫉妬しながらも、一度は諦めたヨーロッパ進出の夢を彼に託した。その時、石尾が漕ぎ出した前代未聞の戦略とはー(「プロトンの中の孤独」)。エースの孤独、アシストの犠牲、ドーピングと故障への恐怖。『サクリファイス』シリーズに秘められた感涙必至の全六編。
七カ月振りに総兵衛一行が江戸へ帰ってきた。古着大市の準備に忙しい大黒屋の面々だったが、主人の無事の戻りを歓喜の声を以て迎えた。帰着後すぐ総兵衛は入堀向かいの破産寸前の炭問屋の家屋敷の購入を決め、また大市での大勢の客の食事や手洗いの用意に知恵を絞る…。そんな大黒屋を遠くから執拗に監視する目があった。新たな強敵がやってきた。総兵衛す愛刀葵典太を静かに抜いた。
「よろいち」の編集アルバイト学生恵もいよいよ就活の季節。そんななか、編集部に寄せられる情報は“幽霊”ネタばかり。臆病者の恵が渋々調査に出掛けた廃屋で目撃したものは怨霊なのか。一方、兄の稔は行方不明の父を捜し続けていた。しかし、その消息を知る男の死。現場に残るアカシアの小枝の意味は?メンバーとの別れ、就職、父との再会…恵の今後や如何に。シリーズ完結編。
フランスの暴政を嫌って渡英した亡命貴族のチャールズ・ダーネイ、人生に絶望した放蕩無頼の弁護士シドニー・カートン。二人の青年はともに、無実の罪で長年バスティーユに投獄されていたマネット医師の娘ルーシーに思いを寄せる。折りしも、パリでは革命の炎が燃え上がろうとしていた。時代の荒波に翻弄される三人の運命やいかに?壮大な歴史ロマン、永遠の名作を新訳で贈る。