2016年3月5日発売
父の破産をきっかけに、幼いセレナの生活は一変した。夢も希望もない極貧生活のなか、一家をどん底に突き落とした父の仇敵への憎しみを糧に、少女は日々成長していった。そして14年後、セレナに絶好の復讐のチャンスが訪れる。今をときめく実業家、クーパー・ブロックー仇敵の愛息が不正を働いている証拠をつかんだのだ。これさえあれば、ブロックの家名に泥を塗ることだってできる。だが、実際のクーパーを知るにつれ、セレナの心に迷いが生じ始める。彼はたしかに傲慢で冷酷。でも決して曲がったことはしない高潔な人よ。驚いたことに、いつしか憎しみは熱い熱情へと変わろうとしていた。
ジェシカは18歳で父と継母を亡くし、幼い異母妹を一人で育ててきた。生活の支えとなっているのは大手宝飾店の専属モデルの仕事のみ。それだけに、今回の社長の突然の交代劇は大きな痛手だった。なぜなら、その新社長、ギリシア人富豪のルーカス・サラントスこそ、ジェシカが8年間にプロポーズを拒んだ元恋人だったから。彼は契約解消を仄めかしつつ、彼女に大胆な衣装と宝石をまとわせ、妖艶な大人のモデルに転身するよう厳しく言い渡した。今の私を全否定したいのかしら。これは過去の仕返しなの?ジェシカはわかっていた。ルーカスの要求をのむしかないことを。そして、彼の要求がさらに苛酷になっていくであろうことも。
ロンドンのアンティークショップで働くローズは、フランス人実業家ウジェーヌ・ボネールの来訪を待っていた。入院中の店主に頼まれて、この店をぜひ買い取りたいという彼とうまく交渉し、有利に契約をまとめる必要があった。現れたウジェーヌの青い瞳に魅せられ、ついぼうっとなった彼女は、すぐに後悔した。彼は拒めないほどの大金を積んで条件をのませると、さらに契約書類はローズが別荘まで直接届けるように命じたのだ。ローズはしぶしぶ別荘のあるスコットランドの孤島に小舟で向かった。あいにくの嵐の中、出迎えた彼が囁く。「今夜は帰れないな」微笑むウジェーヌを前に、ローズは警戒心と好奇心のはざまで揺れた。
チャリティは幼いころから詐欺師である父の言うなりに、詐欺の片棒を担がされてきた。実母の顔も知らない彼女にとって、唯一の家族である父に認められることは何より重要だったのだ。だがとうとう父と決別する日が訪れた。イタリア人富豪ロッコの財産を騙し取ったあと、父は姿を消したーよりによって、娘にすべての罪をなすりつけて…。ホテルの一室で憤怒に燃えるロッコに責められ、揉み合ううちに、あろうことか彼女はバージンを捧げてしまった。なぜだかわからないが、そうすることが自然に思えたのだ。2カ月後、妊娠に気づいたチャリティは怯えながら彼を訪ねるが…。
アニーは海辺の町の病院で働き始めて8カ月になる。病院を取り仕切っているのは、百戦錬磨の医師トム・マカイバー。あまたの恋を経験する色男で、仕事の腕も超一流だ。赴任して間もなく、アニーはトムの衝撃的な言葉を耳にしていた。“ひどく地味な女性だから、ずっと独身のまま働いてくれそうだな”それでも病院を辞めないのは、彼が学生時代からの憧れの人だから。ある晩、アニーはトムの家の前に赤ん坊が置かれているのを見つけた。一夜をともにした女性が、こっそり押しつけていったらしい。突然幼い娘の父親になって奮闘するトムに、アニーは協力を申し出たーまさか、彼から結婚を申し込まれるとは思いもせずに。
ジャクリーンは研修医として故郷に帰り、亡き父がかつて設立した病院に採用された。現院長は父の若き友人で同僚だったメルドン・パワーズ。父の葬儀のときには優しい言葉をかけてくれたのに、初日に会った彼は別人のように厳しく、小さなミスも許さない。傲慢なメルドンに怯える日々を送るジャクリーンにとって、同僚のマーティンとたわいない話をするのが息抜きになっていた。だがある夜、メルドンの私邸で開かれたパーティでいつものようにマーティンと話していると、メルドンがやってきてマーティンを追い払い、強引にジャクリーンの唇を奪った!
リディアは継娘のお目付け役として訪れた舞踏会で、二度と会いたくないと同時に誰よりも会いたかったニコラスと再会した。彼は8年前、社交界デビューをしたばかりの地味なリディアに目をつけ、その気にさせて求婚の言葉をささやいておきながら姿を消した。失意の彼女はやむにやまれぬ事情で父親ほど年上の男性に嫁いだものの、人知れずニコラスへの叶わなかった想いをずっとくすぶらせていた。時が過ぎ、彼女は若き未亡人に、彼は立派な子爵になった今、再会を機に、未遂に終わった恋がふたたび燃えあがるかに見えた。ところが、そんな切ないリディアの想いを嘲るかのように、なぜかニコラスは蔑みの目を向けてきて…。
キャシーに選択の余地はなかった。優しかった母亡きあと、父が賭事にのめり込み、家は没落。父の死後、暴君と化した異母兄は放蕩で財産を食いつぶしたあげく、キャシーを裕福な老貴族に嫁がせようと画策していた。ある夜、いもしない恋人の存在を兄になじられ、外へ飛び出したキャシー。通りすがりの颯爽とした紳士ロスに助けを乞うたが、あえなく兄に捕まり、あろうことか彼は投獄されてしまった!もう逃げられない…。私は恋を知らないまま一生を終えるのね。彼女は想像だにしなかった。一条の光のごとく現れたロス・グレアムー高貴な出自を秘めた彼こそが、キャシーを闇から救い出す運命の人だとは。
ある晩、夜道で目にした人影に、イザベラは愕然とした。漆黒の闇から現れた、銀色の瞳の悪魔ーあなたは、リチャード!8年前、イザベラを誘惑しもてあそんで、無惨に捨てた男性だ。想いは封印したはずなのに、彼の瞳に射貫かれると、もう抵抗できない。イザベラは摩天楼のペントハウスで彼に組み敷かれ、激しい愛に溺れた。ところが、その直後、彼は非情にも言い放った。「今すぐアメリカから出ていってくれ。これは過去の関係の清算だ」そんな、いったいどうして…?混乱したイザベラはその場を逃げ出す。しかし翌日、仕事を終え帰宅すると、そこにはリチャードがいた。彼との別れののち、ひそかに産み育ててきた息子の隣に…。
姉の死後、姪を引き取ったハッティは一縷の望みを胸に、かつての恋人で大富豪ルックのオフィスを訪ねた。赤ん坊を抱いたハッティを、黒い瞳が射るように見つめる。彼女は挨拶もそこそこに切り出した。「わたしと…結婚してほしいの」そしておずおずと打ち明けた。卑劣な義兄一家に姪を渡したくない一心で、“資産家の婚約者がいる”と嘘をついてしまったことを。いちだんとセクシーさを増したルックのハンサムな横顔は険しかった。こんなばかげた頼み事、承知してくれるはずがないわよね…。「いいだろう。すぐにぼくの家に引っ越すんだ」冷たい光を宿すルックの目に、欲望の炎がともった。
若き億万長者デヴォン・カーターから、夢のようにロマンチックなディナーでプロポーズされ、アシュリーは天にも昇るようなここちだった。最愛の人に巡り合うまで大切に守ってきた純潔を捧げ、わたしは世界でいちばん幸せな花嫁だと信じて疑わなかった。デヴォンにとっては、まことに都合のいいことだった。世間知らずなアシュリーを愛しているふりをするのはたやすい。彼女はベッドでの相性も悪くない。結婚相手としては充分だろう。アシュリーの父親との合併条件をクリアしたデヴォンは、ディナーの予約と指輪を手配し、まんまと政略結婚にこぎ着けた。
彼女は病院のベッドに横たわり、緊張に苛まれていた。主治医の話から、自分がイヴという名前で、車の事故のせいで記憶喪失に陥っていることは既に知っていた。そして、妊娠していることも。これからお腹の子の父親であるギリシア人富豪に会うというのに、その顔さえ思い出せないなんて…。病室のドアが開き、恋人だというタロス・クセナキスが現れた。信じられないほどハンサムな男性だが、冷たい影を感じる。どうしても記憶を取り戻せない彼女を抱きしめ、タロスが言った。「もう決して君を放さない。きみは僕の妻になるんだ!」