2016年発売
広島県の造り酒屋に生まれた池田勇人は、大蔵省に入って5年目に全身から膿が吹き出す「落葉状天疱瘡」という難病に罹り、生死をさまよう闘病の中で退転を余儀なくされた。絶望の底に叩きつけられた池田だったが、奇跡的に同省へ復職、仕事ぶりの卓抜さから、主税局長、次官と上り詰めたのち、政治の世界へと身を投じる。時を同じくして、朝日新聞政治部の記者で水泳指導者としても活動する田畑政治は、幻となったオリンピックを再び東京で開催しようと動き始めるー。
信じていた恋人に振られ、職業もお金も、居場所さえも失った25歳のエミリ。藁をもすがる思いで10年以上連絡を取っていなかった祖父の家へ転がり込む。 心が荒みきっているエミリは、人からの親切を素直に受け入れられない。しかし、淡々と包丁を研ぎ、食事を仕度する祖父の姿を見ているうちに、小さな変化が起こり始める。食に対する姿勢、人との付き合い、もののとらえ方や考え方……。周囲の人たち、そして疎遠だった親との関係を一歩踏み出そうと思い始めるーー。「毎日をきちんと生きる」ことは、人生を大切に歩むこと。人間の限りない温かさと心の再生を描いた、癒しの物語。
吉祥寺のガーデンショップ「栽ーSAI-」に居候中の大学生・保。兄のような存在である庭師の啓介が、すご腕の陰陽師でもあることを最近知ったが、それ以上詳しいことを教えてくれないのが不満の種。啓介の美貌の異母弟・弓弦は、知ることは時に危険で、知らないほうが良いこともあるのだと諭す。そんなある日、保と啓介は庭の手入れを依頼され一軒家を訪れるが、突然井戸から黒い煙のようなものが噴き出し、『うそつき』という女の声が…。「少年陰陽師」シリーズの著者が贈る、現代の陰陽師ものがたり第2弾。
政治家に転身した池田勇人は着実に要職を踏み、ついに首相に就任。東京オリンピック開催準備の政府責任者として、首都大改造、東海道新幹線の建設などを指揮、経済成長を牽引する。しかし、開催直前、病魔が池田を襲う。一方、東京五輪決定を機に組織委員会事務総長に就任した元朝日新聞記者の田畑政治は、突如湧き起った責任問題で事務総長辞任に追い込まれてしまう。「記憶に残る大会に」「経済成長に弾みを」…。それぞれの理想を掲げて奔走した二人。そしてついに「この日」は訪れたー。
西丸書院番組頭を務める立原家の娘、志津乃は、父と継母が進めようとしている新たな縁談に気を揉んでいた。相手の高階信吾郎は、父と同じ西丸の書院番士であり、武芸に秀でた美男。誰から見ても申し分のない良縁である。だが、志津乃には、決して忘れることのできない人がいた。かつての許婚の坂木蒼馬は、西丸書院番士であったが、徳川家治の継嗣、家基の死を切っ掛けに突如失踪したのだ。蒼馬を忘れられずにいる志津乃に対し、信吾郎は、蒼馬が家基の暗殺を疑われていることを告げるのだったー。蒼馬が失踪した真相を知るため、志津乃は彼を捜す決意をする。『ヨイ豊』で注目を集める著者が描く、最新時代長篇。
優しく裕福な夫、二人の子ども、ジャーナリストとしての恵まれた仕事。幸福を絵に描いたような生活を送っていたリンダだったが、ある取材を機に人生を見つめ直し、自分が抱える深い悲しみに気づいてしまった。自分は日常生活に追われ、危険を冒すことを恐れ鈍感になっていた。結婚生活にも情熱は感じられない。感動も喜びも消え、この孤独感はだれにも理解してもらえないとリンダは絶望し始めていた。そんなとき、元彼と再会する。政治家として出世街道を歩みながらも同じような孤独を抱えたその男、ヤコブはリンダに問いかけた。「きみは幸せなのかい」と。その一言がきっかけで、リンダは刺激を求め危険な道に足を踏み入れるー。
ノンフィクションライターの小林は、脳梗塞で療養中の元与党幹事長・佐竹の回顧録のゴーストライターを引き受ける。売れないライターからの一発逆転を狙い、小林は過去の巨額借り入れ金スキャンダルを告白させようと試みるが、佐竹が語り出したのは、戦争のできる国家へと大きく舵を切る現総理大臣の前代未聞の大スキャンダルだった。しかし、佐竹の告解が終わった刹那、公安警察が現れて乱闘になり、脳梗塞を再発した佐竹は死亡してしまう。佐竹の告白と乱闘の一部始終が録音されたレコーダーを手に、現場から命からがら逃げ出した小林は、旧知の警察官の助けを得て、マスコミを巻き込んだ大勝負に出るがー。時代を切り取る、迫真の書き下ろしエンタテインメント!
七野夏姫は、ワケありの取引先を一手に引き受ける渉外七課、通称「ハキダメ」に配属され、必死に書いた稟議を申請するたびに本部に否認される毎日を送っていた。その本部決裁者こそ、ハイパークールという威名をとどかす審査役の北大路でー七野はついに、北大路に向けて宣戦布告めいたメールを送りつけるのだが…!?
同じ年頃にみえるふたりの少女は、なぜか母と娘を演じている。ふたりの旅の理由はただひとつ。娘の病気を止める薬を得るため。母は魔物を倒し他人をだましなにもかも捨ててしまっても、娘を救う手段を求めつづけるー絶望と、かすかな希望の物語。
三十歳。生まれて初めての恋が私を変える。手品のようにー女子力の低いOLが人気マジシャンに一目惚れ。オレンジ色のシルクスカーフを巧みに操る彼に近づきたくて、仕事をやめてマジックの世界へ。芸も恋も前途多難、心が折れそうになったとき、不思議な巡り合わせが…愉快な恋愛成長小説。
恋人の桜桃瑠梨(ゆすら・るり)を事故で亡くして以来怠惰な日々を過ごしていた私立探偵・冬青明(そよご・あきら)は、ある地域に伝わる伝承を調査するために、一人、過疎化の進む港町を訪れていた。明は、その町で偶然立ち寄ったBAR「リスキーゲーム」の女店主赤荻七海(あかおぎ・なつみ)に、「特別な日」の店の手伝いを依頼される。そして約束の日。いつになく混雑する店内に用意されたステージで艶やかな歌声を披露している人物が、瑠梨の妹・理子(りこ)であることを知った明は、彼女に不思議な魅力を感じていくー。『千本桜』『ACUTE』シリーズでお馴染みの黒うさPによるビターなボカロ楽曲、待望のノベライズ!
「男と張り合おうとするな」醜女と呼ばれながら、物書きを志した祖母の言葉の意味は何だったのだろう。心に芽生えた書きたいという衝動を和歌が追い始めたとき、仙太郎の妻になり夫を支える穏やかな未来図は、いびつに形を変えた。母の呪詛、恋人の抑圧、仕事の壁。それでも切実に求めているのだ、大切な何かを。全てに抗いもがきながら、自分の道へ踏み出してゆく、新しい私の物語。
浅草は田原町で小さな古着屋を営む喜十は、北町奉行所隠密廻り同心の上遠野のお勤めの手助けで、東奔西走する毎日。店先に捨てられていた赤ん坊の捨吉を養子にした喜十の前に、捨吉のきょうだいが姿を現した。上遠野は、その四人の子どもも引き取ってしまえと無茶を言うが…。日々の暮らしの些細なことに、人生のほんとうが見えてくる。はらり涙の、心やすらぐ連作人情捕物帳六編。
高野が警察手帳を紛失したらしい。柴崎警部は頭を抱えた。彼女はその事実をあっさり認める。だが捜査を続けるうち、不祥事は全く別の貌を見せはじめた。少年犯罪、ストーカー、老夫婦宅への強盗事件。盗犯第二係・高野朋美巡査は柴崎の庇護のもと、坂元真紀署長らとぶつかりながら刑事として覚醒してゆく。迫真のリアリティ。心の奥底に潜むミステリ。警察小説の最高峰がここに。
ある者は朝食を用意している最中に、或いは風呂を沸かしたまま、忽然と姿を消した。四国山間部の集落で発生した老人の連続失踪事件。重要参考人となった父に真相を質すべく現地に赴いた医師は、村人が隠蔽する陰惨な事件に辿り着く。奇妙な風習に囚われた村で起る凶事。理不尽な差別が横行した60年前の狂気が、恨みを増幅して暴れ出すー。ハンセン病差別の闇を抉る慟哭の長編小説。
貞次郎の想い人、弥生は心ならずも目付神崎に嫁いだ。貞次郎は奸計に遭って、神崎の腕を斬り脱藩。江戸での潜伏の日々、神崎の参府と弥生の出奔を知り…(「雪の果て」)。餅菓子を売りながら女手ひとつで幼子を育てるおみさの前に、父親になるはずの男が五年ぶりに現れたのだが、幕吏に追われる身となっていた(「梅香餅」)。女たちのはかなくも強靭な愛の姿を炙り出す傑作人情譚四編。
二十世紀後半、ドイツ中部の地方都市に突如出現した怪物“月硝子”。同市に隔離された市民は、五十年の時の中で、人間と怪物の戦いをギャンブル「生存賭博」として娯楽産業化した。賭けで生計を立てる少女、琉璃=A・ミュンヒハウゼンはある日、謎の甲冑騎士が月硝子を壊滅させたことを知る。それは狂乱を貪る都市の崩壊を告げる事件だった…。極限の欲望を描く、近未来エンタメ。