2018年8月29日発売
探偵小説を愛し、戦争中は仲間と犯人当てゲームに興じた安吾。本作は著者初の本格探偵小説にして、日本ミステリ史に輝く名作である。その独創的なトリックは、江戸川乱歩ら専門作家をも驚嘆せしめた。山奥の洋館で起こる殺人事件。乱倫と狂態の中に残された「心理の足跡」を見抜き、あなたは犯人を推理できるか?自らの原稿料を賭けた「読者への挑戦状」を網羅。感涙の短篇「アンゴウ」特別収録。
大河が南北を隔てる巨大工場は、ひとつの街に匹敵する規模をもち、環境に順応した固有動物さえ生息する。ここで牛山佳子は書類廃棄に励み、佳子の兄は雑多な書類に赤字を施し、古笛青年は屋上緑化に相応しいコケを探す。しかし、精励するほどに謎はきざす。この仕事はなぜ必要なのか……。緻密に描き出される職場に、夢想のような日常が浮かぶ表題作ほか 2 作。新潮新人賞、織田作之助賞受賞。
「誰かに認められたいなら、もっと全力でやって」東山路代はマネジメントを担当するモデルの咲子に不満を抱いていた。今日こそは言う。そう決意した矢先、収録現場に遅刻し、咲子を怒らせてしまう。憧れのバンド7BOYSの傍で働くために上京して早四年、夢見ていた場所は遠すぎるー。スタイリスト、女子アナ、アイドル。華美な世界に生きながら決して特別ではない女性たちを描く作品集。
これは、怒れる神の鉄槌なのか。伝説の地、アララト山で、ノアの方舟調査隊隊員が次々と壮絶な最期を遂げる。背筋も凍る事態に直面したのは、あらゆる知識をその頭蓋に収めた天才学者、一石豊。一石はカメラマン・森園アリスと共にこの連続死の謎に挑み、同時に方舟の真実を解き明かしてゆく。気鋭の推理小説作家が構築した、美しくも壮大なミステリ大伽藍。
古代吉備の歴史を研究する、岡山県総社市在住の郷土史家・吉野文彦が、東京のホテルで殺害された。“桃太郎伝説”を題材にした吉野の小説「吉備 古代の呪い」に手掛りがあると推理した、警視庁捜査一課の十津川警部は、亀井刑事とともに岡山に向かう。吉備津彦神社、吉備津神社、血吸川、鬼ノ城をはじめ、伝説ゆかりの地を訪ねた十津川警部は…。古代史ロマン香る、長編トラベルミステリー。
女は男の従属物じゃないー。1972年、東京、吉祥寺。ジャズ喫茶でアルバイトをする大学生の直子は、傷つけられ、社会へ憤りながら、同時に新左翼とウーマンリブの現状にも疑問を抱いていた。閉塞感の中、不意に出会ったドラマー志望の男との恋にのめり込んでゆく…。泡のごとき友情。胸に深く刻んだ死。彷徨する魂の行方。まだ何者でもなかった頃のあなたに捧ぐ、永遠の青春小説。
おいしいものを食べているときと、いとしいセックスをしているとき、女は一番幸せになれる。台所で立ったまま生玉子かけごはんをすする自由。深夜のラーメン屋で相席になった男とのラブアフェア。恋人の裏切りを知った後に食べるチーズの官能。逝ってしまった大切な人たちを想いつつ縁先で傾ける日本酒と肴。味覚と心を研ぎ澄まし、人生の酸いも甘いも楽しむ女たちを祝福する、美味なる短編集。
18歳の頃、カナは元恋人に刺されるも一命を取り留めた。29歳の今、仕事も夫と幼い息子との家庭も充実しているが、空虚な傷跡は残ったままだ。その頃、米国から姉一家が帰国しカナは甥の弘斗と再会。19歳になった彼に激しい愛情を寄せられ、一線を越えてしまう。カナに妄執する弘斗は危うげで、そしてある過去を隠していたー。二人を繋いでしまった、それぞれの罪と罰。喪失と再生の純愛小説。
カジノ計画が動き出した東京。元商社マンの杉田義英は、その運営権を獲得したカイザー社に転職。プロジェクトマネージャーのオリバーが、ジャパニーズカジノ成功の秘策は「飲む・打つ・買う」と確信、遊び好きの彼を見込んだのだ。杉田は、世界の超VIPが金を落とす夢のカジノを実現すべく、切れ者でミステリアスな美女・柏木とともに掟破りの作戦に奔走する!
安倍晴明と同時代に生きた平安時代の陰陽師・蘆屋炎蔵の墓を調査した大学准教授が、不審な死を遂げる。死因は焼死。火の気がないところで、いきなり身体が発火しての死亡だった。殺人。事故。呪い。さまざまな憶測が飛び交う中、天医会総合病院の女医・天久鷹央は真実を求め、調査を開始する。だが、それは事件の始まりに過ぎなかった…。現役の医師が描く本格医療ミステリー!
月光の冴え渡る森で、小木輝は「死神」と出会った。饒舌かつ毒舌な死神に、既に死んでいると告げられるも、数時間前からの記憶がない。ソーシャルワーカーとして勤務する病院で、階段から転落したことが判明するが、本当にただの事故なのか?ストーカーの出現、妹の誘拐、混迷を極める中、小木は再び森へと向かうー死神を伴って。「最強」の死神が任務を果たせぬ「最悪」とは!?
総理直轄の特殊捜査班「R.E.D.」総員6名は、フランスの地に舞い降りた。完全秘匿の強制介入によって、国際マフィア・多国籍企業・フランス国家警察中枢からなる日本人少女人身売買ネットワークを殲滅するために。圧倒的なスピードと火力で展開される日仏警察のパリ市街総力戦。その長い一夜が明けたとき、ついにすべての元凶、末井官房長官の真の目的が明らかになった。衝撃の第三幕。
これが、トリックです。本来ネタバレ厳禁の作中トリックを先に公開してミステリを書くという難題に、超豪華作家陣が挑戦!鍵と糸ー同じトリックから誕生したのは、びっくりするほど多彩多様な作品たち。日常の謎あり、驚愕のどんでん返しあり、あたたかな感涙あり、胸を締め付ける切なさあり…。5人の犯人が鍵をかけて隠した5つの“秘密”を解き明かす、競作アンソロジー。
町長殺害事件を捜査する刑事の前に現れたのは、犯行を自白する51人もの町民だった…「だれが町長を殺したか?」。早期退職を強いられた銀行員が資産家の顧客の秘密に気づき、人生大逆転の賭けに出る「上級副支店長」。旅行の保険で小金を手に入れる術を考案した夫婦の末路を3通りのエンディングで描く「生涯の休日」。奇抜すぎる発想と意外すぎる展開で人生の不思議を縦横に描き出す傑作集。
19世紀半ば、英国。北極海を目指し捕鯨船ヴォランティア号が出港した。乗組員は、アヘン中毒の船医サムナー、かつて航海で大勢の船員を犠牲にした船長ブラウンリー、そして凶暴な銛打ちのドラックスら曲者揃い。やがて船内で猟奇殺人が起きるが、それは過酷な運命の序章に過ぎなかったー。想像を超える展開と圧倒的な筆力で、人間の本性と自然の脅威を描き尽くすサバイバル・サスペンス。
イタリアで客死した叔父の亡骸を捜す青年、予知能力と読心能力を持つ男の生涯、先々代の当主の亡霊に死を予告された男、養女への遺言状を隠したまま落命した老貴婦人の苦悩。日本への紹介が少なく、読み応えのある中篇幽霊物語四作品を精選して集成!一八六〇年代には今日のミステリやスリラー小説の源流になったと目される作品が次々と出版され、また、怪奇小説、恐怖小説の分野で優れた作品が数多く発表されたのもこの時代であった。内容的に長い話にはしにくかった恐怖小説は中短篇が主体で、特にクリスマスの時期になると、各雑誌が競って幽霊物語を掲載し、当時の文壇の大御所であった作家も好んで幽霊譚を寄稿した。比較的長い物語の場合、優れた作品でありながら、選集に収録するには長すぎるし、かといって、それ一作を単行本として刊行するには短かすぎる、ということで、あまり日の目を見ずにきたという作品もかなりある。本書では、そうした長めの怪異譚の中から、読み応えのある力作で、かつ、日本の読者にはあまり馴染みがない作品を四篇選び、これまでにない趣のアンソロジーの編纂を試みた。--三馬志伸「解題」より ウィルキー・コリンズ「狂気のマンクトン」(1855)ジョージ・エリオット「剝がれたベール」(1859)メアリ・エリザベス・ブラッドン「クライトン・アビー」(1871)マーガレット・オリファント「老貴婦人」(1884)訳註訳者解題