2020年11月12日発売
『失われた時を求めて』の冒頭部「コンブレー」を取り上げ、プルースト的生成を鮮やかに開示する。登場人物たちの思いがけない造形過程やいくつものテーマ系の細部から壮大な全体へと及んでゆく。プルーストを読む醍醐味を伝える。
セゾングループの総帥が描いた兄弟の物語 出征と敗走、捕虜生活を経験した兄と、終戦の年に生まれた異母弟。歩んできた道も、価値観も異なる二人の男の半生を描いた大作の上巻。 復員後、大学在学中から商売を始めていた兄・忠一郎は、卒業して商社のアメリカ駐在員となり、そこで出会った日系米国人との出会いから、新しいビジネスーーサンドイッチ店のヒントをつかむ。 片や新聞社に入った弟・良也は、妻がありながら、かつての恋人・茜への想いが断ちがたく、取材旅行の傍ら茜の痕跡を訪ね歩く……。 著者の実体験を彷彿とさせる設定や、戦後の経済史をたどるような記述が物語にリアリティを与え、読者の心をつかんで離さない。
理性では割り切れない愛欲の強さを描く 維子の敬愛する叔母・伊勢子は、軍需工場の社長でのちに政治家になる泉中紋哉の愛人だった。紋哉は、妻と別れて伊勢子と一緒になる、といいながら、一向に実行する気配がない。そのうち、伊勢子は和泉式部伝説の残る東北の温泉で自死してしまう。維子は紋哉に恨みを抱くが、同時に自分勝手で男くさい紋哉に次第に心惹かれていきーー。 伊勢子の日記に描かれていた過去と、やはり夫のある身で愛欲におぼれた和泉式部のそれを照らし合わせながら、維子の生き方を赤裸々に描いた、第5回毎日芸術賞受賞作品。
静岡・大井川を遡上し、南アルプス聖岳を目指したカップルが遭難。旅行作家・茶屋次郎の知人の娘石浜波路は保護されたが、恋人の若松和重は遺体で発見される。若松は山行の途中、急に姿を消したという。だが、その死因は絞殺。所持品から、服用者が次々命を落とす危険薬物が見つかる。波路への嫌疑を晴らすため、“魔薬”の流通ルートを追う茶屋だったが、同じく事件を調査していた探偵・的場が刺殺されていたことを知る。緑柱石色の水面が輝く寸又峡、朱色の鉄橋渡る旧い蒸気機関車。絶景が彩る調査行が始まる。
昭和三十六年、日本の映画史上に 残されていない幻の映画があったーー。 一人の少女に夢を見た、男たちの物語。 フリーライターの南比奈子が取材することになったのは、伝説の映画プロデューサー、上野重蔵。彼には不可解な謎があった。文芸映画の巨匠として名を馳せていた五十年前に突如、表舞台から姿を消したのだ。数年後、映画界に再登場したのは、なんとポルノの製作者としてだったーー。取材の中で比奈子は、上野が製作したという邦画史上存在しないはずの映画の存在を知る。百年に一度の女優のデビュー作となるはずだった本作が、完成後、上映取りやめになったことも。取材を続けるうちに、上野重蔵という男と幻の映画の全貌が次第に明らかになっていくーー。
『マハーバーラタ』と並ぶインド神話の二大叙事詩『ラーマーヤナ』の物語を再話し、挿絵つきの読みやすい物語に。背景となる神話やインドの文化をコラムで解説。ラーマーヤナ入門として最適の一冊。
『マハーバーラタ』と並ぶインド神話の二大叙事詩『ラーマーヤナ』の物語を再話し、挿絵つきの読みやすい物語に。背景となる神話やインドの文化をコラムで解説。ラーマーヤナ入門として最適の一冊。
不安の時代に抗する、現代レジスタンス文学の誕生。 エンタメと純文学の融合を実現した物語、 肉体の躍動による命の奇蹟を文章で表現! 未知の感染症によって、これまでにない不安の時代が続いている。人間の命をめぐるその情況に、この物語は新しい鮮やかなカタルシス、新しい生き方を暗示する。 現代レジスタンス文学運動の始まりとも言うべき、運命の一作である。 実に18年4か月もの歳月をかけて熟成させた小説、それは伊達ではないことを感じさせる。 一字一句まで神経が行き渡り、人間から動物、昆虫、そして木々に草、苔までの命をとらえ、その死すべき運命にいかに抗するか、この永遠にして、もっとも根源的なテーマを、“謎”を追う緊迫した物語に乗せて追求していく。 筆者は多様にして異色の経歴と活動のなかで、ノンフィクション作家として複数のベストセラーを持ち、今年度の「咢堂ブックオブザイヤー」を受賞している。純文学としてすでに「平成紀」(幻冬舎文庫、親本は2002年発行)を世に出し高い評価を受けた。小説の書き手としては、そこから満を持しての二作目であり、再出発となる。 「アラスカ育ちの若い女性咲音。山中でひとり暮らす老婆『灰猫』の謎。何年かに一度、出現する森の中の湖。青山さんが、こんなにみずみずしい感性を持ち続けていたことに驚く。コロナ時代の『復活』の書、清冽な水の音が聞こえるような小説だ」 『月刊Hanada』編集長・花田紀凱