小説むすび | 2021年11月1日発売

2021年11月1日発売

夜の声夜の声

耳をすませば、
声が聞こえてくる  人魚の死体が打ち寄せられた町の人々の熱狂と奇妙な憧れを描く「マーメイド・フィーバー」。夜中に階下の物音を聞きつけた妻が、隣で眠る夫を起こさずに泥棒を撃退しようとあれこれ煩悶する「妻と泥棒」。幽霊と共に生きる町を、奇異と自覚しつつもどこか誇らしげに語る「私たちの町の幽霊」。勝手知ったるはずの自分の町が開発熱でまるで迷宮のようになってしまう「近日開店」……。  ミルハウザーといえば、細部まで緻密な描写でリアルに感じられるが、決定的にどこか変という世界が特徴である。前作『ホーム・ラン』ではその想像力は外へ外へと広がり宇宙を感じさせたが、本書で印象的なのは、内に広がる内省的なもの。「夜の声」はそれが顕著な傑作。夜中に自分の名前を呼ぶ声を聞いた旧約聖書の少年の物語を軸に、“声”を待ちわびる、時空を超えた者たちの心のうちをたどる。じつはこの短篇の原題はA Voice in the Nightと単数だが、短篇集全体の原題はVoices in the Nightと複数。つまり、一篇一篇が「声」なのである。唯一無二の世界を生み出す名人が緻密な筆致、驚異の想像力で紡ぐ八篇の声に耳を傾けていただきたい。

士官たちと紳士たち 誉れの剣2士官たちと紳士たち 誉れの剣2

戦場における名誉とは 第二次大戦を描いた名作 ガイ・クラウチバックが戦地アフリカから帰国すると、ロンドンはドイツ軍の空襲下にあった。新たに編成されたコマンド部隊に配属されて訓練地の島へ向かったガイは旧知の面々と再会し、同僚アイヴァ・クレア大尉の紳士らしい超然とした態度に感銘をおぼえる。やがて旅団長に復帰したリッチー=フック准将の下、部隊はイギリスを出発、ケープタウン経由でエジプトに到着するが、現地で合流するはずの旅団長は行方不明で、待機中の部隊の士気は下がるばかり。そしてついにガイの所属する隊にもクレタ島への出動命令が下った……。 悪夢のような戦場と、士官として重責を担うはずの紳士階級が露呈する無能ぶり。作家自身の従軍体験にもとづき、戦争の愚かしさ、恐ろしさとともに、英国階級社会の変質を痛烈に描いて、第二次世界大戦に取材した英国小説の最高峰と評されるイーヴリン・ウォー畢生の大作《誉れの剣》三部作の第二巻。本邦初訳。

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