2023年4月発売
小島に一人で暮らす元医師のフレドリックは、就寝中の火事で住む家も家財道具もすべて失った。その後警察の調べで火事の原因が放火であったことが判明、フレドリックは保険金目当ての自作自演だと疑いをかけられてしまう。ところが、火事はそれだけではおさまらなかった。付近の群島の家々が続けて放火されたのだ…。幸い死者は出ていない。犯人の目的はどこにあるのか?“刑事ヴァランダー・シリーズ”で人気の北欧ミステリの帝王最後の作品。CWAインターナショナルダガー受賞。
姉が弟の遺体を浄める。本来これは同性の仕事なのだが、姉は自分がやると主張したー。亡き弟の思い出を情感豊かに紡ぐ「浄め(グスル)」。アメリカの女の子として成長してきたアラブ系移民2世の“わたし”と、波乱の人生をおくった伯母の物語に、窓から飛び降りた女が女神と邂逅する幻想的な光景を織り込んだ「マナートの娘たち」。#MeToo運動以前の映画産業で、あるインターンの女性が受けたハラスメントを描き、問題提起する「懸命に努力するものだけが成功する」。新聞記事や手紙、メールの文章、リアリティー番組の台本やSNS投稿など虚実取り交ぜた多彩な媒体のコラージュで、フロリダで実際に起こったシリア・レバノン系移民夫婦のリンチ事件を核に、アメリカという国家に潜む暴力性や異質なものを排除しようとする人間の本質を浮かび上がらせる野心的な傑作「アリゲーター」。過酷な現実を生きる人々に寄り添い、多様な声を届けようとする全9篇。現代アメリカ文学の新鋭による鮮烈なデビュー短篇集!
著者チョ・ヘジンが二〇一三年から二〇一六年までに発表した九つの短篇を収録した本書。傷つき忘却される人びとを記憶し続けなければならないという作家の切実な思いは、優しくも力強い言葉に乗って誰かの希望となり、強者に押し込められた孤独から、救う者と救われる者を護り照らす、ぬくもりに満ちた一筋の光となるだろう。
魂を揺さぶる村上春樹の<秘密の場所>へーー待望の新作長編一二〇〇枚! 十七歳と十六歳の夏の夕暮れ……川面を風が静かに吹き抜けていく。彼女の細い指は、私の指に何かをこっそり語りかける。何か大事な、言葉にはできないことを。高い壁と望楼、図書館の暗闇、古い夢、そしてきみの面影。自分の居場所はいったいどこにあるのだろう。村上春樹が封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。
日本イエズス会管区長代理という当時最高責任者だったにも関わらず「信仰薄きゆえに拷問に堪えかね、ころび者になった」そんな皮相的なイメージ…宗教の衣を脱ぎ現世の道徳を重んじた儒教に傾倒したフェレイラの思想を追うキリシタン小説。
千秋国際空港で大型旅客機が爆破された。県警捜査一課の内藤は初動捜査に当たるが、捜査本部は手口から国際的なテロと断定、テロを専門に扱う公安部に捜査の主導権を奪われてしまう。捜査の本筋から外された内藤には、無数にある防犯カメラ捜査が割り当てられたが、空港内のありとあらゆる風景を記録していたはずのカメラに、犯行の様子を記録したものは一つもなかった。本当に国際テロ組織による犯行なのか。四十年前の開港前夜、空港反対派による過激な反対運動があったが、今はもう、その火は完全に消えている。関連はないのか。もし反対派なら、今さら何に反対しようというのか。内藤が頭を悩ませる中、厳戒の警備態勢をあざ笑うかのように二機目が爆破されるーーーー
アネリーズはパリにある会社に就職し、忙しい日々を送っていた。1度しか会っていないCEOのニコラと彼女が交際中だという、根も葉もない新聞記事のせいでパパラッチが押し寄せてくるまでは。彼はヨーロッパじゅうの王族が結婚相手に望むほどの大富豪だ。このままでは私の存在が迷惑になる。会社を辞めて田舎に引っこもう。ところがニコラはアネリーズを呼び出し、驚くべき提案をしてきた。記事を書かせた者をさがすため、彼の婚約者を演じてほしいというのだ。もちろん自分では分不相応だからと、アネリーズは断ろうとした。けれどニコラに手を握られ、黒い瞳で情熱的に見つめられるうち、唇はいつの間にか「はい」と言っていて…。
目が覚めると、彼女は記憶をなくしていた。列車事故が起き、偶然現場にいた医師スチュアートに命を救われたが、彼女は意識を失う前、赤ん坊を大事に抱えていたという。その子は彼の姪で、彼女は亡き兄の妻デザレイだと聞かされる。彼は兄と長く疎遠だったため、その妻である彼女とは初対面らしい。わたしに夫がいたなんて、まったく身に覚えがないけれど…。これまでの人生を失った不安に押しつぶされそうななか、親身に支えてくれるスチュアートに、いつしか心を許していた。そこから、彼女のデザレイとしての人生が始まるかに見えたーだが、やがて驚きの真実が判明する。彼女はデザレイではなかった!
看護師のハリエットは、休暇でオランダの友人宅を訪ねた。色鮮やかな花々にあふれる早春のオランダは世界一美しい。胸を高鳴らせて町を闊歩する彼女の前に、信号待ちの車が停まった。端整な顔立ちの運転手と目が合い、ハリエットは思わずほほえんだ。なぜか、ずっと昔に会ったことがあるような気がして…。ところがその男性は冷ややかなまなざしのまま走り去り、ハリエットは恥ずかしさに、一瞬でも浮かれた心をたしなめた。翌日、診療所を経営する友人の父親を、医師のフリソが訪ねてきた。まあ!あの車の男性だわ!驚くハリエットに、彼は詰問した。「昨日、君はなぜほほえんだ?僕のことなど知らないはずなのに」