2025年5月8日発売
自身の体験も織り交ぜながら描く並行世界 SF作家の〈ぼく〉が、収録のため放送局のエレベーターに乗り込むと、降りた先にあったのは、スタジオではなく、かつて〈ぼく〉が一般社員として勤めていた会社だった。しかもいつの間にか〈ぼく〉が資材部次長になっており、亡くなったはずの同級生が生きていてーー。 その後も2ヵ月ごとに、第一工場総務課長、フリーライター、大地震で焼け出された人間と〈ぼく〉の肩書や状況は目まぐるしく変わっていき、「ぼくはひょっとするとこの世界では、自分のおさまるべき場を、発見出来ないで終るかも知れない」と思うようになる。 眉村卓が、自身の体験も織り交ぜながら描くパラレルワールドの世界。「もしあのとき違う選択をしていたら……」という誰もが思い描く空想世界を見事にまとめた名作。
根拠のない自信に満ち溢れていた中学時代を経て、「何者でもない自分」という現実に気づいてしまった佐々井青磁。進学した高校では特別ななにかを求めることもなく、無為な日々を過ごしていた。ある日、友人の応援で訪れた弓道大会で、ひとりの少女に目を奪われた。小柄な彼女が放った矢は、まっすぐに的と、青磁の心を射抜いてしまった。 ちょっとしたアクシデントと友人のおせっかいで、彼女・永澤椎乃と知り合うことができた青磁。しかし彼女は不機嫌そうにスマートフォンの画面を突きつけてくる。 『直接でなく コソコソ嗅ぎ回るようなまわりくどいことしてまで 私と話したいことって なんでしょう』--話に聞いていたとおり、彼女は声を発しなかった。 声を捨てて頑なに自分の殻に閉じこもり、ひたすらに弓道を究めようとする椎乃の心を、青磁は解きほぐすことができるのか。「第一回ラノベストリート大賞」大賞に輝いた、弓道を通して描く青春ストーリー。
2019年、英国ルーベリー国際文学賞最終候補作、並びにカナダの公立3大学図書館の「貴重文献及び特別蒐集品」部門所蔵作品。 「影」として日本に帰国しなければならなかった長田栄造。 これは歴史の荒波に翻弄されながらも家族を思慕し一途に生きた一日本人の物語であり、 第二次世界大戦中の日系カナダ人強制収容という不当な 歴史的事実を背景に、主人公の心理的葛藤を活写した小説である。 「本書は同情心を呼び起こす男の物語で、緊張感もあり、主人公の境遇は心に強く訴え、また道徳的に複雑である」 (ルーベリ国際文学賞選評(英国)同賞の2019年度最終候補作)、 「感動的で説得力のある最終章に向けて盛り上がる小説」(ソーニア・アーンツェン、トロント大学東アジア研究学部名誉教授)、 「強制収容所を生き抜いた日系カナダ人の物語を生き生きと描いた、重要で示唆に富む歴史小説」 (イアン・ベアード、ウィスコンシン大学マディソン校地理学教授)、 「戦争がもたらす心の痛み、日系カナダ人の忍耐力、勇気、不屈性を描いた小説」 (ルーシイ・バーミンガム、日本外国特派員協会元会長)、 「主人公の人生を共に生きているかのように思わせる見事な描写で、百点満点の小説」 (レイチェル・バスティン・ブロッガー)、 「著者は胸に迫る語り口で、読者を孤独と強じんさ、そして犠牲的精神の物語に没入させる」 (レベッカ・コーポランド、ワシントン大学セントルイス校日本文学教授)、 「ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』と本書は共に強制収容を扱っているが、 この物語は血の絆と心の絆を描いた感動的な小説」(オリヴィエ・フロリオ、映画音楽作曲家)、 「ドラマチックな驚きを与え、心理的洞察、鮮やかな描写に富んだ小説」 (スティーブン・ラージ、前ケンブリッジ大学アジア中東学部日本近現代史教授)、 「心が痛み、感動させる小説」(コーディ・ ポールトン博士、京都アメリカ大学コンソーシアム所長)、 「戦時中を生きた日系カナダ人の体験、及び日本に帰国した人々が受けた扱いについての物語」 (パトリシア・ ロイ、ビクトリア大学カナダ歴史学名誉教授)。
「不思議に魅力的な本である」と故・立花隆氏に絶賛された前作『北斎と応為 上・下』(2014年、彩流社刊)に続く第2作!幕末から明治初期、日本の混乱期に多くの文化財が流出している。世界に名を馳せた葛飾北斎の作品も高値で取引されていた。北斎の娘・応為は、父に劣らず健筆を振るっていたわけだが、女性絵師は、女性であるだけで存在を消されることとなり、決して正当には認められることの無い時代であった。当時、来日したアーネスト・フェネロサやエドワード・モース、ウィリアム・ビゲローの3人が買い集めた作品群の中にも応為の作品は含まれていたのだが………。本書は、亡霊となることで明治の時代を死後に眺め続ける応為と三人のボストン人との関わりを描き、忍びながら華やいだ絵筆の後の浮世絵流出の姿と女性絵師の密やかでありながら光を燈し続けた復活を描く物語である。 第一部 1 一八八一年 神奈川の無縁仏 2 波止場での出来事 3 横浜グランドホテル 4 一八八二年 蛮人たちの家 5 一八八三年 美術品を追い求めて 6 狂ったように 7 リジーの役割 8 僧の拒絶 9 高野山 10 火事の後 11 幽霊の末路 12 そして、四人 13 暗い出来事 14 任務終了 第二部 15 一八三一年 江戸 16 数十日後 17 一八三五年 四年後の江戸 18 一八六八年 北曜 19 最期 20 一八五三年 浦賀湾、黒船 第三部 21 一八九二年 ボストン 22 失墜 23 さらなる失墜 24 闘鶏 25 本間耕曹 26 一八六七年 東京 応為 27 蛮人戻る 28 目録 29 一八九九年 東京 ダンス 30 一九〇〇年 パリ 31 一九〇〇年 東京 能 32 戸崎の菓子 第四部 33 一九〇四年 ボストン 34 一九〇四年 デトロイト 35 ウィノナ湖、インディアナ 36 デトロイト 37 一九〇八年 ロンドン 最初の旅立ち 38 ニューヨーク あの本 39 一九一三年 コベント・ガーデン ロンドン 40 出版人ハイネマンとのディナー 41 ロスト・ボーイズ 42 臨終の訪問 43 モビールのメアリー 44 東京ーー小布施 45 小布施ーー東京 菓子 46 再び東京で 47 東京 能楽 48 東京郊外、応為一人 ある小説家の応為研究 --あとがきにかえて 謝辞 訳者あとがき
[商品について] ー大志を抱くわしは、伊達より大きな名の「陸奥」と名乗ろうー 第二次伊藤内閣が発足した際、外務大臣として、徳川幕府が諸外国と結んだ不平等条約の改正に貢献するなど、外交官・政治家として活躍した陸奥宗光。機略に富み、頭の回転が早い(=頭が切れる)ことから「カミソリ大臣」との異名も持つ彼は、どのような生涯を歩んだのか。--紀州藩士だった父の失脚とそれに伴う幼少期の苦難。その後の人生に大きな影響を及ぼした幕末の坂本龍馬との出会い、維新政府での伊藤博文との付き合い。そして目まぐるしく変革を遂げる政府内での日々と、その活躍を支えた妻・亮子の存在…。生来の反骨精神を胸に、明治という新時代を駆け抜けた英雄、陸奥宗光の人生に迫った歴史小説。 [目次] 序章 ●第1章 伊達家と紀州藩 ●第2章 宗光の誕生と父宗広の出世 ●第3章 父が失脚し一家流転 ●第4章 宗光が江戸に出る ●第5章 一家の赦免と脱藩 ●第6章 坂本龍馬との出会い ●第7章 新政府の一員になる ●第8章 伊藤博文との付き合い深まる ●第9章 罪を得て収監される ●第10章 不平等条約の改正に取り組む 終章 ●主な参考文献 ●著者略歴 [担当からのコメント] 「カミソリ大臣」こと陸奥宗光の生涯に迫った本作ですが、その頃日本ではどんなことが起きていたのか、ということも適宜わかるようになっているため、宗光のことをまだ詳しく知らないという方でも、日本史という大きな枠組みの中でその活躍を知ることができます。持病に苦しみながらも国家のために懸命に働いた彼の生涯を、ぜひ本作を通してじっくりと辿ってみてください。 [著者略歴] 森下 和彦(もりした かずひこ) 一九四一年(昭和十六年)和歌山県海南市生まれ、紀美野町で育つ 大阪府松原市在住 著書に 〇POD版は『きのくに・神野の里』(歴史の情景の中の日本と、山村の生活) デジタル版は『故郷(ふるさと)きのくに神野の里』(歴史の情景の中の日本と、山村の生活) 〇小説 高野騒動(高野山寺領の強訴) 〇雑賀孫一と信長(戦国歴史小説) (いずれもデジタル版とPOD版がある)
明の時代である。 その中でも天啓5年(1625年)から崇禎3年(1630年)にかけての明を舞台にした物語である。 王朝という天が交代する中で人は何を求めて生きていくのだろうか。 智謀を巡らし、剣を取り、野心を抱く。 人は生きる上で常に己の善悪と戦わざるを得ない。 精神の奥深くにある善と悪。 必死則生、幸生則死。人の世の儚さを描く長篇第一弾。