2025年7月28日発売
東京大空襲×洋装女性連続不審死 実在した警視庁の写真室所属巡査と“吉川線”を考案した鑑識第一人者による傑作ミステリー! 戦争で、空襲でどうせ死ぬ。 それなのに、どうして殺人事件を追うのか? 空襲が激化する1945年1月、警視庁でただ一人、ライカのカメラを扱える石川光陽。写真室勤務である彼の任務は、戦禍の街並みや管内の事件現場をフィルムに収めること。 折しも世間では、女性四名の連続首吊り自殺が報じられていた。四人は全員、珍しい洋装姿で亡くなっており、花のように広がったスカートが印象的なため“釣鐘草の衝動”と呼ばれ話題となっていた。 ある日突然、警視庁上層部から連続する首吊り事件の再捜査命令が光陽にくだる。彼と組むのは内務省防犯課の吉川澄一。光陽が撮った現場写真を見た吉川は、頸部索溝や捜査記録の重要性を説く。自殺説に傾く光陽に対し、吉川は他殺を疑っていた。 捜査が進む中で、四人の女性にはある共通点が判明。激しさを増す空襲の中でも、光陽と吉川による必死の捜査が続き、吉川は決然と捜査の意義を語るーー。 「犯罪を見逃すのは、罪を許容することと同義です。空から爆弾を落として罪なき人々を殺している行為を容認することと同じなんです。我々は、許されざる行為を糾弾する役目を担わなければならないんです」 さらに光陽と吉川の前に、戦時中でも洋装を貫く女性の協力者が現れるーー。 本作は、統制下という世界によって自分が変えられないようにするため、美しくありたいと願う、気高い女性たちの物語。 戦後80年、次世代へつなげたい著者渾身の記念碑的小説!
終灯列車に乗車した死者には、過去へ戻る“追憶行”の権利が与えられる。制限時間は“十二時間”。ただし、過去でどんな行動を起こしても、死の運命は覆らない。ゆえに死に関することを、過去の生者に伝えるのは厳禁である。なお“追憶行”で修正された出来事は、すべて上書きされる。本来存在していたはずの過去は失われるので、要注意。たった一度の奇蹟が紡ぐ、記憶の旅。そんな旅に出る男女4人のそれぞれの記憶の物語。この“追憶行”でなにを織りなすかは、過去を選択したあなた次第ーー。
これは前進か後退か? 幼い子供を抱えながら、日々の生活に疲弊する男。思い描く理想の人生と現実の狭間でもがき、ある決断を下そうとするがー 夫婦とは、家族とは何かを問う傑作小説。 「ことばとvol.7」掲載の「不服」に、書き下ろし作品「楽園」「パールライトタワー天王寺」を収録した、話題作『学歴狂の詩』の佐川恭一による最新小説! 蓄積した時間の厚みだけが二人をつなぎとめ、しかしそれは真に重要なものではない。確かにともに過ごした時間は、消え去ることのない絶対的なものかもしれない。だがそれだけだ。たんなる事実としてそれはあり、それに束縛されるかどうかは、これも信仰の問題にすぎない。 (『楽園』本文より)
1993年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学専攻卒業。パリ第四大学フランス文学科修士課程修了。現在、フランスの食品関連企業にて通訳および渉外業務に従事している。
2020年ピューリツァー賞最終候補作 「さて、これから一枚の写真を見せるので、ひとつお話を作ってもらいたい(…)この写真に写る人たちはなにを考えて、感じていると思う? まずは、なぜこのような場面に至ったのかを話してみてくれないか」 1997年、中西部カンザス州トピーカ。高校生のアダム・ゴードンは、恋人のあとを追って入り込んだ湖畔の邸宅がじつは見知らぬ他人の家だったことに気づいた。つかのま世界が組み替わり、アダムはその湖畔に立ち並ぶすべての家に同時にいる感覚に襲われる。同一性と、確からしさの崩壊。彼はすべての家にいたが、その家々の上空を漂うこともできた。 競技ディベートの名手であるアダムが、自分のスピーチのなかにみた暴力性。ともに臨床心理士のアダムの両親が紐解きはじめた、自らの記憶。母ジェーンの葛藤と彼女が闘ったトピーカの「男性たち」。父ジョナサンが心の奥底に隠した弱さ。言葉の限界にそれぞれの形で向き合う家族の語りに、アダムの同級生ダレンの声が織りこまれる。クラスにとってよそものだった彼を待つ事件。それは避けられなかったのか? そして、アダムが最後に選び取ったスピーチとは。 複数の声が時代を行き来しながら、米国の現在を照射する。『10:04』の作者が、知性と繊細さをもって共同体を描きだす、小説の新しい可能性。