著者 : 五條瑛
突然、目の前に現れた見知らぬ男は少年に言った。「世の中のためになる人間ー誰かの役に立つ人間になれ。大切なのは何のためにそれが必要か、ということだ」と。そして月日が流れ、少年は政治家になった。在日米軍情報機関の末端に籍を置く、情報分析員の葉山隆は、HUMINT(人的情報収集活動)として、ある調査をすることになる。真実に近づくことは、前途有望な若き政治家の人生を翻弄することになるとも知らず…。
出征していた歌舞伎役者の紀上辰三郎は、復員後、彼を慕う弟弟子の香也と一座の再興を期す。一方、辰三郎の上官だった宮本は巣鴨プリズンに収監されたが、GHQ所属のリオンの訪問を受け、諜報組織への参加を条件に出獄。共産主義勢力の摘発に動く。民間情報教育局CIEは歌舞伎演目の制限を示唆し、梨園は存立の危機に立っていた。辰三郎はCIE懐柔に奔走するが。書下し長篇サスペンス。
偽造紙幣“スーパーK”の運び屋と目される北朝鮮工作員が日本に入国した。来日前、ソウルで激しい銃撃戦を起こした工作員・チョンは、現場にメモを残していた。米国国防総省直轄の情報機関に所属する葉山隆に与えられた任務は、その文書の解読と、日本での潜伏先を探ることだった。上司・エディからの命令にしぶしぶ調査を進めていた葉山は、やがてある日本人女性とその息子の存在に行きあたる。同時期、北朝鮮では対外情報調査部に勤める夫を持つ女性・李光朱と、その娘・春花が、平壌から北へ向かっていた。二人は白頭山を望む国境の町・茂山にたどり着いた。第三回大藪春彦賞受賞作。
米国国防総省直轄の情報機関に所属する葉山隆は、北朝鮮工作員・チョンの足取りを追ううち、チョンが日本で杉川春子と家庭を持ち、息子をもうけていたと知る。同じ頃、チョンが祖国に残した妻・光朱と娘・春花は、国境を流れる豆満江を越えようとしていた。だが、渡渉の途中に北朝鮮の警備隊に銃撃され、光朱は命を落とす。チョンが二つの家族に抱く愛情はどちらも本物だと確信した葉山は、彼を亡命させる決意を固める。祖国とは何か?家族とは何か?工作員の行為にひそむ、凄絶な悲しみが読む者の胸を打つ。ラストは感涙必至。第三回大藪春彦賞受賞作!
表沙汰にできない依頼を違法すれすれの方法で解決する裏ビジネスのプロ集団シルバー・オクトパシー。メンバーのユリアが、昔の知り合いで入院中の広域暴力団元若頭を見舞う。男は死期が迫り、ユリアは遺言のように頼まれる。十六年の刑期を終え近く出所する二次団体の元幹部に、五千万円余の現金と経を渡してほしい、と。これがとんでもない事件の発端だった!
タワーが建設され活気を帯びる街、錦糸町。元大学准教授の鏑木は、理由あってこの街でヤクザの便利屋をしている。ある日、組の構成員・畠が逮捕された事件の調査を命じられるが、畠は釈放後に姿を消してしまう。相棒の京二とともに畠の周囲の金の流れを追ううち、とある大きな犯罪行為の存在が浮かび上がる。鏑木は、裏社会の欲望うごめく闇の奥に何を見るのか?
多国籍グループと日本人との対立は急速に激化し、多国籍同士の抗争も始まった。多国籍が豊かさを求めてきたはずのこの国は、今、有り余るほどの情報や自由を手にしながらも、実は不自由さにからめ取られているのかもしれない。“革命”小説シリーズ第9弾。描き下ろし掌編「ゴッホの血」収録。
最先端の施設警備システム・ROMESを擁する西日本国際空港で、密輪の摘発が続いた。税関から協力要請を受けた空港警備チームは、ROMESを駆使して次々と運び屋たちを発見していく。だが、うまく行きすぎる。疑問を抱いたシステム運用の天才・成嶋優弥はひそかに調査を開始する。大模規密輪を隠れ蓑にして進んでいた恐るべきテロ計画。成嶋は首謀者の男の執念に対抗できるか?
新宿のスラムで育った亞宮柾人は、ストリートギャング同士の抗争で逮補され、矯正施設に送られる。だがK七号施設と呼ばれるそこは、政治・思想犯専用の刑務所だった。囚人による自治が認められ、一見、自由で新しい施設だが、柾人は陰謀のにおいを感じ、真相に迫ろうとする。思想と信仰の危うさに迫るノンストップ近未来サスペンス。
脱走した米兵の惨殺死体が日本海岸で発見された。それがすべての発端だった…。同じ頃、米国防総省の下請け情報機関に所属するアナリスト・葉山は調査中にある情報を入手する。北朝鮮の権力中枢で、何かが起きているー。鍵を握る謎の言葉「プラチナ・ビーズ」とは?米朝の謀報戦を鮮烈に描く、本格スパイ小説の新鋭、入魂のデビュー作。文庫版のための特別描き下ろし短編『ミスター・オリエンタル』も収録。