著者 : 小池真理子
25年ぶりの親友との再会。TV出演した小夜子を見て連絡をとってきた女は、まるで別人のように変貌していた。うずまく疑念、そして…。表題作「会いたかった人」。他に男と女の妖しく美しい愛の行き着く果てを描く「倒錯の庭」、犬を飼い始めてからはじまる不運にみずからとりつかれていく男の物語「災厄の犬」を収録。静かな狂気を描くサイコ・サスペンス短編集。
不能老人の持つ乾いた匂い、義理の息子への激しい肉欲、美に執着する醜い男、異端の老作家の癒しがたい孤独、年下の青年の「手」の感触に惹かれる中年女性…。性愛だけではない、男女のひそやかなエロティシズムの世界を描いた六篇を収める。官能の世界を描き続けてきた著者のエッセンスを凝縮した短篇集。
冴え冴えとした月光の射し込む夜半の診察室。消毒薬の匂いがたちこめるベッド。視線を上げた幼い私が眼にした二つの影。母の倫ならぬ恋の目撃者は、自らもその人生の秋に狂おしい恋に堕ちていった-。縊死という悲しい手段で不倫にピリオドを打った母の最期の姿を眼に焼きつけたまま私は身悶えする。月の狂気を纏ったこの恋を、一体どうしたらいい。
連合赤軍が浅間山荘事件を起こし、日本国中を震撼させた1972年冬。当時学生だった矢野布美子は、大学助教授の片瀬信太郎と妻の雛子の優雅で奔放な魅力に心奪われ、彼ら二人との倒錯した恋にのめりこんでいた。だが幸福な三角関係も崩壊する時が訪れ、嫉妬と激情の果てに恐るべき事件が!?香りたつ官能、美しき異端、乾いた虚無感。比類なき美と官能に彩られた小池文学の最高峰!ジャンルを越えて絶賛された直木賞受賞作。
偶然通りかかった、阿久津との思い出の場所。そこで私たちは出会い、恋に落ちたのだー。18年前に事故死した男との愛の日々を記憶によみがえらせたその日の晩、突然かかってきた電話の主は…。不思議で怖く、どこか懐かしい「異界」への扉を開く幻想小説8編。
美をはらむ恐怖、その香しき世界。殺したいほど憎いのに、狂おしいほど愛しい。ひぐらしが鳴き乱れる屋敷に、ひっそりと暮らす若き女主人。彼女の魔性に翻弄される男の行く末は?匂い立つ官能美の世界を華麗に描く表題作他、著者自選の二篇を収録。
東京郊外に暮らす美術大学の講師、川久保悟郎。その娘でララという名の猫にだけ心を開く孤独な少女、桃子。そして、家庭教師として川久保家にやってきた画家志望の雅代。微妙な緊張を抱きながらもバランスのとれた三人の生活はそれなりに平穏だった。そう、あの日、あの女が現れるまでは…丹念に描かれた心の襞と悲劇的なツイスト、直木賞作家の隠れた名作待望の文庫化。
新築・格安、都心に位置するという抜群の条件の瀟洒なマンションに移り住んだ哲平一家。問題は何一つないはずだった。ただ一つ、そこが広大な墓地に囲まれていたことを除けば…。やがて、次々と不吉な出来事に襲われ始めた一家がついにむかえた、最悪の事態とは…。復刊が長く待ち望まれた、衝撃と戦慄の名作モダン・ホラー。
学園紛争、デモ、フォーク反戦集会。森の都・仙台。バロック音楽の響く喫茶店で出会い恋におちた二人。野間響子・18歳、家族と別れて暮す高校三年生。堂本渉・21歳、不思義な雰囲気をもつ大学生。悪夢のようなあの事件がなかったら、恋にも別な結末がありえたのだろうか…。60年代末期のあの熱狂は何だったのだろうか…。激しい時代の波のなかで花開いた危険で美しい恋。新境地をひらく長篇小説。
男にとって女は美しい一匹の蛾なのかもしれない…。ふとしたはずみで、教え子の女子大生に手を出した大学助教授。それが、転落の始まりだった。-日常生活の奥にひそむ人間心理の危うさを華麗なタッチで描く、サスペンス・ロマン。