著者 : 村木嵐
口がまわらず、誰にも言葉が届かない。歩いた後には尿を引きずった跡が残るため、まいまいつぶろと呼ばれ蔑まれた君主がいた。常に側に控えるのは、ただ一人、彼の言葉を解する何の後ろ盾もない小姓・兵庫。麻痺を抱え廃嫡を噂されていた若君は、いかにして将軍になったのか。第九代将軍・徳川家重を描く落涙必至の傑作歴史小説。
「一体どうすれば、天下が取れるのか」。美貌も有力な後ろ盾もない阿茶には、男を凌ぐ知恵があった。夫亡き後徳川家康の側室に収まり、その才を生かし織田・豊臣の天下を生き延びる。そんな彼女には、家康よりも息子よりも愛した人がいた。阿茶の知られざる真実に迫る、傑作歴史小説。
江戸幕府二五〇年。侍の世の終わりに見えたのは、円く優しい人の世の始まりー。押しかけ女房になった成瀬家の姫・澪。その夫で、徳川慶勝に忠実に仕える陸ノ介。現代の礎となる激動の時代、翻弄されながらも愛と信義を貫く夫婦の姿を繊細に活写した傑作時代小説。
武田、今川、北条の同盟で政略結婚をさせられた、三人の姫ー黄梅院、嶺松院、早川殿。束の間の幸せは三家の対立によって崩れてしまう…。戦国の世の道理に翻弄されながらも、愛する家族のために生きる女たちの運命とは!?本願寺顕如の室・如春と亡き朝倉義景の娘や、信玄の娘・松姫の悲恋なども収録した渾身の短編集!
差配から住人まで全員が悪党の長屋に引っ越してきた新住人をめぐる騒動(「善人長屋」)、人の縁を取り持つ“結び屋”が出合った、見合い相手に不可解な態度を取る娘の哀しき真実(「まぶたの笑顔」)、つらいお店奉公に耐えかねた幼い丁稚に、大旦那さまが聞かせた不思議な話(「首吊り御本尊」)など、書籍未収録作品や書き下ろし作品を加えた時代小説アンソロジー。ほろ苦くも心を揺さぶる珠玉の六作を収録。
歴史に残るような戦国武将は、戦いに勝つべくして勝つのみにあらず。時として味方は寡勢、敵は数倍という絶対絶命の場面を潜り抜けて来て、世に名を残したのだ。織田信長、伊達政宗、浅井長政、島津義弘など七人の武将たちの驚愕の逆転の打開策を、当代きっての名手七人が描く、珠玉の短編アンソロジー。
熊本藩の大秀才、井上多久馬(後の井上毅)は、戊辰戦争によって傷ついた会津若松城を見上げ、学問を用いてこの国を豊かにすることを誓う。やがて欧州各国の法律を学び帰国した多久馬は、統一した法を持たぬ未開の地として不平等条約を結ばされた日本にも、独自の憲法が必要だと痛感する。多久馬は岩倉具視や伊藤博文などの理解者と憲法草案の研究を進めるが、諸外国には決してない「二千五百年も続く皇室」の信頼に応えられるか苦悩する…。国のために才を尽くした井上毅の実直な生き方と、家族愛に溢れた人間性を丁寧な筆致で書き下ろした、長編時代小説の傑作誕生!!
西洋との架け橋となるべく、日葡辞書を作る男のもとで働いた「おせん」、この上なく美しい姫として、天草の民に誰よりも愛された「お京」、天草五人衆の中心人物であり、何があっても島を守ろうとする「麟泉」。運命に翻弄される彼らは、何を「地上の星」として見定めるのか。
江戸は下町の商店で若い娘が立て続けに押し込み強盗に殺害され、数十両の金が奪われた。現場に残された紙片には狐の絵が描かれていたことから、盗賊は「火狐」と呼ばれる。南町奉行所同心・大沢源之進は間もなく火狐一味を捕らえるが、真の下手人はほかにいると睨み、やがて町で評判の火消・多助に目をつける…清張賞作家が放つ時代サスペンス!
三代将軍家光の時代に幕政を宰領、『徳川の平和(パクス・トクガワーナ)』の礎を築いた「知恵伊豆」こと松平伊豆守信綱。信綱には我が子のごとく慈しんだ少年・小太郎がいた。小太郎は南蛮医としての将来が嘱望されたが、決して知られてはならない秘密を抱えていた。やがて二人に最大の試練「島原の乱」が迫り来るー。
戦国時代末期、天正遣欧少年使節としてローマに派遣された四人の少年。八年後に帰国した彼らを待っていたのは禁教と厳しい弾圧だった。三人は信仰に殉じたが、千々石ミゲルだけが棄教する。なぜ彼は信仰を捨て生き抜こうとしたのか。その生涯をある女性の視点から描いた傑作歴史小説。第十七回松本清張賞受賞。
“知恵伊豆”この賢者なくして「徳川の平和」はなかった。老臣たちの権謀を抑え、江戸城下の建設に腐心する松平信綱に最大の試練「島原の乱」が迫る。松本清張賞作家が為政者の真の勇気を問う意欲作。
戦国末、ローマに派遣された天正遣欧少年使節。八年後に帰国した彼らを待っていたのは「禁教」だった。四人の内、ある者は道半ばで倒れ、国外に追放され、拷問の中で殉教する。だが、千々石ミゲルだけは信仰を捨てた。切支丹の憎悪を一身に受けながら、彼は何のために生きようとしたのか?ミゲルの苦悩の生涯を、妻「珠」の目から描く傑作。