著者 : 羽田圭介
冴津武士は三十代前半、物を持たない生き方を推奨するウェブサイト「身軽生活」を運営し、ミニマルなライフスタイルのためのグッズ「MUJOU」をプロデュースしている。住むのは都心のワンルーム、家具は必要最小限。持ち物も、仕事に必要なデジタル機器の他はわずかな衣服と食器のみ。その冴津の前に、彼の過去の所業のせいで人生を狂わされたという男・更伊が現れる。果たして復讐にやって来たのか。必要最低限の物だけで生活するミニマリストの男。物欲から解放され自由を得たはずが、なお因果は尽きず…SDGs時代の悲喜劇。
外資系食料品メーカーの事務職として働く元地下アイドルの華美は、生活費を切り詰め株に投資することで、給与収入と同じ配当を生む分身の構築を目論んでいる。恋人の直幸は「使わないお金は死んでいる」と華美を笑い、とある人物率いるオンラインコミュニティ活動にのめる込んでゆく。そのアップデートされた物々交換の世界は、マネーゲームに明け暮れる現代の金融システムを乗り越えゆくのだ、と。やがて会員たちと集団生活を始めた直幸を取り戻すべく、華美は“分身”の力を使おうとするのだが…。高度に発達した資本主義、その欠陥を衝くように生まれる新たな幻影ー富に近づけば、死にも近づく。現代人の葛藤を描く羽田圭介の新たな代表作。
編集者須賀は渋谷のスクランブル交差点で女性を襲うゾンビを目撃する。日本各地でゾンビの出現が相次ぐ中、火葬されたはずの文豪たちまで甦り始める。極貧作家K、美人作家、家族で北海道へ逃げる小説家志望の青年、対策に追われる区の職員、ゾンビに噛まれた女子高生。この世界で生き残れるのは誰なのか!?
「じいちゃんなんて早う死んだらよか」。ぼやく祖父の願いをかなえようと、孫の健斗はある計画を思いつく。自らの肉体を筋トレで鍛え上げ、転職のため面接に臨む日々。人生を再構築中の青年は、祖父との共生を通して次第に変化してゆくー。瑞々しさと可笑しみ漂う筆致で、老人の狡猾さも描き切った、第153回芥川賞受賞作。
編集者の須賀は作家と渋谷で打ち合わせ中、スクランブル交差点で女の子を襲うゾンビを目撃する。各地で変質暴動者=ゾンビの出現が相次ぐ中、火葬されたはずの文豪たちまで甦り始め…。デビュー10年目の極貧作家K、久しぶりに小説を発表した美人作家の桃咲カヲル、家族で北へ逃げる小説家志望の南雲晶、区の福祉事務所でゾンビ対策に追われるケースワーカーの新垣、ゾンビに噛まれてしまった女子高生の青崎希。この世界で生き残れるのは誰なのか!?
すべての女は男の携帯を見ている。男は…女の携帯を覗いてはいけない!同棲する彼女の携帯を軽い気持ちで盗み見たことから生まれた、小さな疑い。だが、疑いは疑いを呼び、秘密は深まるばかり。引き返せなくなった男の運命は?話題の芥川賞作家による、驚愕の家庭内ストーキング小説。
その男には2つの顔があった。昼は高齢者に金融商品を売りつける高給取りの証券マン。一転して夜はSMクラブの女王様に跪き、快楽を貪る奴隷。よりハードなプレイを求め、死ぬほどの苦しみを味わった彼が見出したものとはー芥川賞選考委員の賛否が飛び交った表題作のほか、講師と生徒、奴隷と女王様、公私で立場が逆転する男と女の奇妙な交錯を描いた「トーキョーの調教」収録。
僕が入社したのは、悪徳ブラック企業!?過酷な労働と精神的負担で営業部員は半年で辞めていく中、事務職の僕は無難に仕事をこなし二年目に。唯一の楽しみは、会社や駅のトイレでくつろぐこと。素性不明なトイレ常連メンバーたちと静かな個室争奪戦を毎日繰り広げる。しかし、ある電話がきっかけで、日常が一気に崩れ出す。限界に達した僕は、退職を決意するが…。芥川賞作家の話題作。
東京から電車で約1時間の地方都市。勉強とバイトに明け暮れる予備校生「彼」の日常は、中古車ホンダ「ビート」を手に入れてから変わってゆく。デリヘル嬢との微妙な関係、地方都市の閉塞感と青春群像、マシンを操る身体感覚、作家の資質を鮮やかに示し、第142回芥川賞候補になった表題作。短篇「一丁目一番地」を併録。
「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!第153回芥川賞受賞作。
年上の彼女を追いかけて、おれは恋の穴に落っこちた…男子校に通う高1の遠藤は、女子校に通う高3の彼女と、年下であることを隠してつきあっている。二人の、SMならぬSSというおかしな関係の行方は?恋もギターもSEXも、ぜーんぶ“エアー”な男子の“純愛”を描く、各紙誌絶賛の青春小説。
なんとなく授業をさぼって国道4号線を北に走り始めただけだった…やがて僕の自転車は、福島を越え、翌日は山形、そして秋田、青森へと走り続ける。彼女、友人、両親には嘘のメールを送りながら、高2の僕の旅はどこまで続く?21世紀日本版『オン・ザ・ロード』と激賞された、文藝賞作家の話題作。
兄の部屋を偏執的にアサる弟と、罠を仕掛けて執拗に報復する兄。兄弟の果てしない憎しみは、どこから生まれ、どこまでエスカレートしていくのか?出口を失い暴走する憎悪の「黒冷水」を、スピード感溢れる文体で描ききり、選考委員を驚愕させた、恐るべき一七歳による第四〇回文藝賞受賞作。