著者 : 陳舜臣
十七世紀、明朝末の中国。すでに朝は政事に節なく、異民族・満撻子の侵入はほしいまま。野には土匪あふれて、うちつづく凶作に貧窮した民心は、朱家明朝を離れた。反官蜂起した義軍十三家。なかに軍律厳しく、民衆救済を至高の軍紀とした魁雄一人、名を李自成・闖王。だが朝廷軍の各個撃破策に、闖王、孤塁を守るも、ついに潼関南原に壊滅的敗北を喫した。三国志に並ぶ壮大なスケールで描く中国歴史巨篇完訳。
官軍の重囲を、万死に一生を得て突破した闖王軍は、天険の地・商洛山中に兵馬を休めた。かつて十万を誇った軍勢もすでに数百騎。だが民心はすでに朝廷を離れたと信じる李自成は、食糧の欠乏と闘いながら練兵を重ねた。朝廷に投降した義軍に再蜂起の檄を飛ばした李闖王は、合従連衡の秘策を胸に、約束の再挙の日を待った…。中国近世史に燦然と輝く英雄を活写する歴史巨篇完結篇。
隋の煬帝とは従兄弟、北朝の名門・李淵が挙兵し次男李世民の活躍で無血の政権獲得に成功。唐王朝がうぶ声をあげた。女帝武則天の周をはさんで、絢爛たる時代が花ひらく。玄宗皇帝の宮廷に楊貴妃の笑声が、乱舞する美女群の嬌声が、弦歌の音色とともにこだまするー。中国史の醍醐味の極みを描く。
三国志時代、それは中国史上でもっとも波乱に富み、もっとも興味深い時代である。後漢の無法政治の闇のかなたから、ヒーローの時代の光が差す。諸葛亮孔明と劉備の親交、曹操の権謀、孫権の術数など、人々は躍動し、蠢動する。そして、次なる隋の大統一達成まで、時の流れは瞬時のよどみもない。<全6巻>
名君・武帝を得て、空前の黄金期を迎えた前漢にも、やがて衰退の風が吹き始める。西暦8年、帝位を簒奪した王莽は、新を樹てた。しかし、その政権はあまりにもあっけなく滅ぶ。--英雄は激動の時代に生まれる。大陸も狭しと濶歩した梟雄豪傑たち、そして美姫。その確執葛藤の織りなす人間模様を活写。<全6巻>
始皇帝死後、陣勝、呉広の乱に端を発し、中国大陸はふたたび戦乱の渦にまきこまれた。項羽、劉邦の相次ぐ挙兵。大秦帝国はもろくも滅んだ。そして劉邦と項羽の争いは劉邦に凱歌があがる。漢の誕生である。文帝、景帝につづいて即位した武帝は、漢に黄金時代をもたらす。時代を動かす英雄たちの足跡。
一九四七年の春。東京軍事裁判の資料調査を委嘱されていた呉景雄は、仕事の息苦しさから辞職を願い出、空路シンガポールへ帰国の途についた。やがて飛行機は広州上空を通過、眼下に点在する島々が彼の眼に映じた。思えば十五年前、彼はそこで白磁のような膚をもつ海賊の女頭目と夢幻の日々を過ごしたのだった。動乱の歴史の中にはかなく潰えた桃源の地を回想する表題作ほか、秀作四篇を収録。
香港の一流ホテルの空室で、スラブ系の西洋人が殺された。被害者はバンコクのソ連大使館員で、腕ききのKGB謀報官であったことが判明する。しかも使用された毒物は漢方系の極めて特殊なもの。「私」と中垣は、共通の知人で、しばらく消息を絶っている薬学者クリコフの仕業だと睨むがー。網の目のように張りめぐらされた伏線が読者を推理の陥穽に陥れる表題作などミステリー8編。
アヘン戦争から7年後、小乱が続き匪賊が横行する、物情騒然たる中国で、洪秀全が頭角を現わしてきた。エホバを天父と仰ぎ、清朝を排して世直しをめざす、拝上帝会の創始者である。信仰と理想に燃えて金田村に決起した一党は、多彩な勢力も併合して、遂に、太平天国という「国」を樹立するに到った。