出版社 : 水声社
奴らに虐げられるな。女性の身体と連帯、歴史と記憶、声と語り、エコロジー、セクシュアリティ/ジェンダー、ケア…。1985年に発表された近未来小説『侍女の物語』と、2019年の続編『誓願』。男性優位の独裁国家を描く暗澹たるディストピア文学が、なぜ今日、フェミニスト・プロテスト文化の象徴として耳目を集めるのか。現実世界の諸相を束ねて生み出された物語世界に、現在そして未来を生き抜くための希望を探る。
『失われた時を求めて』を裏返しに読む。マルセル・プルーストと同じ1871年に生まれた天才芸術家マリアノ・フォルチュニ。作家は彼の創造する“衣装”をいかに効果的に織り込むか、その効果を周到に計算していた…「官能を刺激し、詩的イメージを喚起し、そして苦痛をもたらす役割を、かわるがわる果たす」(プルースト)フォルチュニの絢爛たる衣装がもつ記憶の喚起力を紡ぎ出す。
火山の噴火でカリブ海の故郷を追われ、世界を彷徨し、最期にパリの施設にたどり着いたマリオットが紡ぐ、ある一族の歴史=人生の物語。奴隷たちの先頭に立って戦い、出産後すぐに処刑された実在の黒人女性から始まる家族の物語、ユダヤ系フランス人アンドレとグアドループ出身のシモーヌによる代表作!
男は砂漠で葉書を書いた、そこからすべてがはじまるーアメリカの大学院で美術史を学ぶ千尋と、並行世界を旅する“飛行機乗り”の語りが交差する表題作のほか、憎しみの連鎖を断ち切るためのウィットに富んだ短編「ブラックホールさんの今日この日」を収録。
眠ることで世界の神秘を見つけようとする男を描く表題作「閉ざされた扉」をはじめ、ネコ科動物の絵を蒐集する主人公が狂気にはまり込んでいく様を描く「サンテリセス」、失職した老人と不思議な少女とが出会う「アナ・マリア」、厳格で気位の高い独身女性がはからずも野良犬と意気投合する「散歩」など、日常からつまはじきにされた者たちの世界を優れた洞察力で描き出す著者の全短編。
アメリカの大富豪ロス・ロックハートは、難病に冒された愛する妻の身体を凍結し、未来の医療に託そうと目論んでいた。プロジェクトに大金を投じる父に招かれ、中央アジアの地下研究施設を訪れた息子ジェフリーが見たものとは…?生か、死か、死のない死かー科学技術の進歩は肉体の復活と人類の更新、永遠への到達を約束しうるのか。そして愛は絶対零度の世界でも生き長らえるのか。極限状況において人間の限界を問う、異色の恋愛小説。
縄文期の“加曽利の犬”、トルコ・イスタンブールでの野犬大虐殺事件、小型化へのあくなき欲望…犬と人間との長きにわたる関係を考察しつつ、愛犬ポメラニアンとの17年の日々を描いた感動のフィクション!
少女の視点から世界の残酷さとシングル・マザーの寄る辺なさが浮かび上がるアニーバル・マシャード「タチという名の少女」、20世紀ブラジル社会の活力と喧噪を伝える全12篇。
1961年10月23日の朝、二人の青年アンヘル・レトとマテマティコが“街”の目抜き通り21ブロックを一時間ほど共に散歩する。両者とも出席が叶わなかった詩人ワシントンの誕生日会の詳細を耳にしたマテマティコは、散歩のさなかその真相をレトに語って聞かせるが…プラトン、ジョイス、フロベール、ボルヘスら巨人たちの文業を受け止めつつ“同一の場所、同一の一度”を語り明かそうと試みる、ひとつの広大な物語世界。
2056年、太陽の異常活動“シンギュラリティ”により、人類は色覚と生殖能力を失った。激変する自然環境、破綻する経済、「色覚の回復」を唱える陰謀者たち…。色彩を失った人びとは、黒と白の世界のなかで、やがて訪れる終焉を静かに待ち続けていた。滅びゆく世界のなかで、人びとが見出した究極の幸せとは…。
テクストの多義的な複数性を求めて大学の官僚主義や順応主義を逃れ、フランス思想に大きな影響を与えてきた、コスモポリタン的な教育機関である高等研究実習院で、一九六八年から一九六九年の二年間にわたって開講された「サラジーヌ」に関するセミナーの記録。六八年の歴史的な出来事が排除され、後に刊行された書物版『S/Z』とは違い、それにより道筋が変えられ、その影響が垣間見られるセミナーでは、バルトが展開した知的な作業の概観をそっくり見ることができ、バルトの創造の舞台裏が、講義から書物へ、口述から筆記への移行だけでなく、草稿からテクストへの変容の道筋が明らかになる。
一九三九年ドイツのポーランド侵攻により第二次世界大戦開戦。ラドムに暮らすユダヤ人一家は、徴兵され、家を追われ、シベリアの強制収容所へ送られ散り散りになるが、それぞれユーラシア、アフリカ、北米、南米での迫害を乗り越え、再会を果たすまでの逃避行を描く迫真のノンフィクション・ノベル。
世界には二種類の人間がいる。-甚大な汚染事故、消費社会の猛威、情報メディアの氾濫、オカルトの蔓延、謎の新薬の魔手、いびつな家族関係、愛の失墜、そして、来るべき“死”に対する底なしの恐怖…。日常を引き裂くこの混沌を、不安を、哀切を、はたして人々は乗り越えられるのか?現代アメリカ文学の鬼才ドン・デリーロの代表作にして問題作、そして今なお人間の実存を穿つポストモダン文学随一の傑作が、より深く胸を打つ魅力的な“新訳”として装いも新たに登場!!
現代のアフロブラジル作家が描きだす“傷跡”の物語。言語の喪失、奴隷制の負の遺産、血に塗れたナイフ、すべてを知る精霊…20世紀後半、奴隷制が色濃く残るバイーア州奥地のアグア・ネグラ農場、この地で暮らすふたりの幼い姉妹は、祖母が隠しているナイフを見つけ、舌にあてがって…
20世紀フランス文壇の中心人物のひとり、ジャン・ポーラン。その知られざる初期短篇小説集。内向的な性格を矯正するために三人の女性と愛を試みる男が登場する表題作、戦場で負傷することに世界との繋がりを見出す主人公を描く「ひたむきな戦士」をはじめ、マダガスカル滞在と第一次世界大戦の経験を色濃く残す全五作品を収録。