1998年発売
生き残る王子はたった一人。流血が王位継承の伝統であったムガル帝国に東インド会社を尖兵としたイギリスの魔手が迫る。アヘン戦争、明治維新へと続く歴史の前哨戦として、三百年を越えるムガル王朝滅亡のひき金をひいたのは誰か。インドは「我が青春の一部」と語る著者が熱き思いをこめて描く長編歴史小説。
この時代地上最大の都である唐、長安。ここに平康坊と呼ばれ、皇城太廟署の角に接したところに巨大な遊廓があり、一般には北里とよばれた。酒の相手をする胡姫の数は多かったが、妓女は少ない。胡蘭はその妓女で、俊敏で白皙緑眼の絶世の美女、西域の歌舞奏曲を乞われて玄宗宮廷で教示した。気ままな妓女くらしが、性に合ってるのか相変わらず北里にあった。性の絢爛と退廃の腐臭が漂う伝奇巨篇書下し。
「カフカ伝説」といったものがある。世の名声を願わず、常に謙虚で、死が近づいたとき友人に作品一切の焼却を依頼したカフカー。だが、くわしく生涯をみていくと、べつの肖像が浮かんでくる。一見、謙虚な人物とつかずはなれず、いずれ自分の時代がくると、固く心に期していたもの書きであって、いわば野心家カフカである。
室町幕府第五代将軍足利義量の時代に幕府首脳部の一員として重きをなした一色満範が没すると、一色家は二つに分れた。丹後を領する喜多一色家を嗣いだ一色信康の死については多くの異説が伝わっている。信康は、同じ日、永享九年五月十四日に、別々の場所で殺されたというのだ。
東京、北海道、沖縄…各地で起こる奇怪な連続殺人。血を抜き取られた死体は、バラバラにされ、あるいは皮をむかれていた!そして、少女たちの間でひそかに流行する「ゾディアック・カード」とは?世紀末の都会の闇に、「魔物」がひそむ-。
「こいつは俺のものだ!」-祖国の滅亡と共に、「海賊王国」の王子、アリの奴隷となってしまった元王子・ルビーローズ。奴隷の証として耳を噛み切られ、水牢に閉じ込められても自らの矜持を崩さないルビーローズに、アリは…。
時は慶長年間。飛騨高山城主の嫡男・金森宗和は、京に出て茶人となった。その茶会に訪れる曰くつきの茶人、牢人、幻術師、そしてあやかしの者ども。はかない露の如く美しい茶道具の数々が、血なまぐさい戦場の物語を運んでくる…。謎に包まれた茶人の武将金森宗和を、大坂夏の陣へ向かう合戦絵巻の中に描き込んだ極上の時代小説。
誘い込み、搾り取り、骨抜きにして、するりと姿を晦ます女。次なるターゲットを求め、闇の中で眼を光らせている女。ノルマをこなしながら美しく着飾って巷を浮遊する女。でもあなたは、決して幸せではないはず。もしかすると、本当はもう骸となって、男たちに甘い幻を見せているのかも…。現代という名のベールの下に隠れ棲む恐怖を描く、心理サスペンスの傑作!第二回新潮ミステリー倶楽部賞受賞。
家を作ってんだ、男は言った。「連れてってやるよ」-ふとした気まぐれで無口な中年男の車に乗り込んだ「私」が、あてどないドライブの果てにたどり着いた場所は…?「今」の空気を映して話題のロード・ノベル「草の巣」と「夜かかる虹」の二篇を収録。
世紀末日本文芸の堕天使が恥と挫折まみれのダメ人生を笑いのめす最高小説集!金がなく職もなく潤いすらない無為の日々。そんな私に人生の茶柱は立つのか?!その過激な堕落の美学で絶賛を浴びた「夫婦茶碗」、金とドラッグと女に翻弄される元パンクロッカーのワイルド・ライフを描いた「人間の屑」。ポストバブル世代の福音書。
エクアドル東部のアマゾン上流、「牧歌的な村」エル・イディリオにも開発の波は押し寄せています。生活を脅かされた先住民や動物たちはさらに奥地へと移動しています。そんなある日、外国人の惨殺死体が運ばれてきます。人間たちの横暴によって追いつめられた山猫(オセロット)が人間を攻撃してきたのです。動物たちを知りつくしている老人も山猫討伐隊に加えられます。自分の身と生活環境を守るために人間を襲った山猫に、老人は引き金を引くことができるのでしょうか…湿った森の豊潤な世界を舞台に、人間の野蛮さを静かに訴える珠玉の小品。
次世代電子機器を飛躍的に小型軽量化するプロジェクトのデモ(評価会)当日、ロボットが暴走、死者が…究明調査を行なう若手技術者の堀川俊介は、衆人環視のなかでの密室殺人の疑いを抱く。彼の心には、昔、大地震に襲われたさい、少女を見捨てて逃げたトラウマがあった。一方、幼いころの記憶を失っている葛城翔子は、同棲相手の柳瀬昇の行動に不安と不審を感じていた。柳瀬は、堀河らが進める開発にスタッフとして参加していた…。禍々しく錯綜した人間関係を背景に、最先端技術の開発を巡り、技術者同士のプライドを賭けた凄まじい角逐が織りなす、著者渾身の書下ろし企業ミステリー。
見知らぬ国の法廷で、自由への闘いを挑むアフリカの男たちと、言葉の壁に苦戦するアメリカ人弁護士。やがて彼らは、互いの不信感を乗り越え、静かな友情を結んでいく-。奴隷制廃止にむけての歴史的転機となった事件に取材した、ヒューマン・ドラマ。
地獄はどこにある?仕立屋ジューヌと愛する妻コルブリューヌ。冥界の領主との約束は果たして守れるのか-。忘れることの恐怖を主題に、人間存在の深淵を抉りだした、現代フランス文学の鬼才による美しい愛の物語。忘却と記憶、顔と言語、無意識と欲望を根源的に考察する哲学的エッセイ「メドゥーサについての小論」を併載。