制作・出演 : エフゲニー・キーシン
20歳のブラームスが書いた第3ソナタを、キーシンはすぐれたバランス感覚を駆使しつつ、きわめて情熱的に弾いている。作曲者が独奏用に自分で編曲した「ハンガリー舞曲集」の5曲も、愉悦感と充実感が高次元で融合した名演だ。キーシン、恐るべし!★
ソナタ第1番の序奏を豊かな共感をもって奏であげたキーシンは、主部に入っても熱い思いに満ちた演奏を繰り広げている。壮大な気宇と詩的な味わいが共存しているあたりもすばらしい。一方の「謝肉祭」は、飛ぶように速い部分がとにかく爽快! 名演だ。★
両端に技巧的な曲を配置し、間奏曲風にバラキレフのリリックな曲をはさむ。ちょっとしたリサイタルのような構成のCD。技巧の冴えは言わずもがな。しかしキーシンは、それだけに依存することからの脱却を試みているようだ。成否は半々といったところ。
キーシンは今回のショパン・アルバムでも明快なコンセプトを打ち出し、スケールが大きく聴き応え十分な演奏を繰り広げている。細部まで作りが克明で、魅力ある表現に彩られているが、全体の流れもしっかりと見据えられている。充実感の残る一枚。★
ショパンのバラード4曲はドラマティックで緊迫感に富む作品だが、今回のスタジオ録音に聴くキーシンの演奏は、必要以上に突き詰めたあるいは自分を追いこんでいるような深刻な印象がやや強い。その後「子守歌」での安らいだ表情にはホッとするが……。
シューマン作品は、題名の意味を改めて認識させるような、まさにファンタスティックな味わいに満ちた演奏で、特に第2楽章で自由な飛翔を見せる。リストでは、キーシンの相変わらずの充実した技巧が印象に残る一方、演奏のスケールがきわめて大きい。★
強固な打鍵力と集中力とを武器に、自己の感情や表現意欲が、演奏にストレートに反映されている。特に(2)と(3)が印象的であり、スピード感のある前進力とデリケートな優しさとの巧みな交錯は聴きもの。アンコール曲3曲の個々に魅力的な演奏も捨て難い。