制作・出演 : 園田高弘
ソナタ・アルバムはピアノを習っている人ならたぶん一度は弾いたことのある、日本ではとてもポピュラーな教科書。今思えば、これらの曲は大御所ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンだったのですね。流れるようなこの演奏を聴いて名曲であったことを認識。
ヤマハのピアノが使われている。録音の影響もあると思うが、音が華美に鳴ることなく美しく抑制されていてフォルテピアノに通じるところがある。スタインウェイをぶったたくだけがピアノじゃない。この音で園田は人の内面を掘り起こすような弾き方をする。
静かに大きく息を吸い込み、それをゆっくりと吐き出していく。そんな演奏である。真正面からアプローチし、ひとつひとつの音を確実な形にして空間に生み出していく。非常にゴツイけれど、とても温かなバッハ。もっと遊びがあってもよかったとも思う。
このパルティータ全曲には、園田氏の、現代のピアノにふさわしいスタイルで描きあげた魅力の演奏が詰まっている。6曲それぞれの性格を明確に弾きわけながら、軽快な律動感と抒情を豊かな響きで奏でている。作品を身近に感じさせる演奏だ。
2回目のソナタ全曲録音は、それだけでもなかなかの偉業。15番のソナタは、真正面からアプローチして、かっちりと引き上げている。一方、カップリングの2つの変奏曲は、多少の余裕というか、遊びがあって、それが彼の違う一面をのぞかせて楽しい。
バッハの音楽は、どのような楽器で演奏しようとバッハであり続ける強靱さを備えている。しかし園田は作品のキャパシティの広さに甘えることなく、“範”を常に意識しながら弾き進む。そこに現われる音楽はピリリと引き締まり、緊張感に溢れている。
後進の育成、コンクールの審査員としての活動が目立つが、演奏家として自分を磨くことを忘れない。レコーディングにも意欲的で、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音が再び始まった。よく考えられた演奏は、ピアノを学ぶ者には手本となるだろう。
園田高弘の自分のレーベルでのレコーディングも10年を迎えた。今回はいわゆるアンコール・ピース集いう形でのアルバムだ。風格さえ漂うピアニズムに支えられ、どの曲もカチッと弾かれているが、ふっと肩の力を抜いたようなところが魅力になっている。
粒立ちのよい、やや明るめのピアノの音で奏された、というか、録音されたというか、ともあれ、感傷と快活が巧みにコントロールされた、親密感にみちたブラームスをここに聴くことができる。なかでも作品76は、曲のすみずみまで光をあてたような表現が魅力。
園田高弘という人はバッハ、ショパンからムソルグスキーやシェーエンベルクまで録音している。このシューマンは変に手先で何かすることなく真正面から弾いていて快い。全体に明快でストレートに弾き切る。ニュアンスのよく伝わる好録音。
園田高弘の約20年ぶりの再録音。彼自身が記しているように、「ピアノによる、よりピアニスティックな演奏に努力」した跡が如実に示され、タッチ、テンポ、ペダル等への細かな配慮とそれを実現した音楽作りのなかに、演奏者の豊かなキャリアが表われている。
このアルバムを聴いて、ピアニストとしての園田高弘の謙虚な姿勢に感激した。真摯な姿勢で臨んだ「展覧会の絵」、チャーミングでユーモアさえ含んだ「クープランの墓」、清冽で虚飾を配した「亡き王女〜」。今の若手には見倣う所が多いのではないか。