ジャンル : 演歌・純邦楽・落語 > 落語・演芸
現代的な解釈で取り組む落語会や、創作落語など若い層にも親しみやすい新・落語を積極的に取り組んでいる林家たい平の落語集。人間っていいな、と思わせる“感動噺”が楽しめる。
庄屋さんの死体をあっちにやり、こっちにやって銭を手にする「算段の平兵衛」をはじめ、文珍はしっかりと噺を聞かせる分だけ、さげをあっさり味にしている。文楽の知識がなくても納得できる噺「新版・豊竹屋」では、義太夫語りで注文をして笑いを誘う。
「薮入り」の亀坊、「居酒屋」の“できますものは”小僧、「茶の湯」のトボケた小僧の定吉、とこまっしゃくれたガキを演じさせたら天下一品。朗々たる語り口は健全なイメージにあふれ、ラジオを通じて、茶の間にスンナリと受け入れられたのであった。
姿も語り口も端正な人だったが、若い頃は噺の方もノッペリした感じだったろうな。年とともに味が出て、ついには“昭和の名人”と。「小言幸兵衛」「百川」といった馬鹿ばかしさを持った噺に、この人の面白さがある。名人が軽い噺を演じる粋な味がいい。
先代が高名すぎてワリをくった感じもあるが、個性的な語り口は一時代を築いた存在だ。酔っぱらいを演じると、なんともすごみがある。「らくだ」の久六、「富久」の久蔵などの酒乱ぶりは、例えば文楽演じる久蔵の明るい酔っぱらいぶりとは好対照である。
「青菜」のダンナにも「天災」の紅羅坊名丸を感じてしまう。これはきっと、柳橋の語り口がどこか、横町の心理学の先生みたいだからだろう。もしかすると『とんち教室』の影響もあって、そう思ったのかもしれない。「子別れ」は“上”に力点を置いて演じる。
「正蔵」の名で30年間活躍したのち改めて、初代「彦六」となった師の創作のもと、独特の人情ばなしが3つ。笑いをねらった内容でも話芸でもないが、この語り口と心情もって演じられると、その場の光景すら眼前に浮かび、胸をうつ。イイネェ…渋くて、名演だ。
明るさ、華やかさを持った芸は、良き時代の寄席の味を伝えてくれた。「味噌蔵」での酒盛りの場面、「野ざらし」の向島大騒ぎのオンマツなど、この人の軽妙洒脱な語り口は、さすが江戸っ子しかも元幇間。こういうタイプの落語家はもう出てこないんだろうな。
古典演目で修行を積んだあと、新作落語で芸道をきり開いていった今輔師。ここで聞かれるのは、いずれも師の口調や動作を念頭において書かれた代表作だけに、実にいい味している。師の枕からは、その時代が読めるし、十八番の「おばあさんもの」もさすが!