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お馴染み、六代目三遊亭圓生の軽妙な語り口を堪能出来るこのシリーズ。37作目となる本盤には、75年に録音した「一人酒盛」。74年に録音した「百年目」の2つの落語を収録。江戸時代から続く落語の王道とも言うべき噺を、圓生の語りを通し味わおう。
3席とも圓生ならではという噺でファンにはうれしい1枚。特に「不幸者」と「骨違い」は近ごろはめったに聴かれない珍しいネタで、それだけでも聴く価値がある。人物描写の巧みさには定評があった人だけに、登場人物の誰もが生き生きと描かれている。
好評の大全集、第39弾は中国に伝わる話をもとに落語に仕立てられたという「文七元結」(76年録音)と、「へっつい幽霊」(74年録音)のカップリング。「文七元結」は舞台劇化され、六代目菊五郎やエノケンまでもが上演したという、人情噺の極致。
落語を笑わせるだけの芸としか考えない人種には、落語の本当のおかしさ、奥行きの深さは理解できない。この「包丁」「ミイラ取り」には人間の悲哀、果てしない愚かさ、その暖かさがにじみ出る噺で、圓生の技がハマりにハマった作品である。落語初心者にも一聴をお薦めしたい作品だ。
66〜70年の談志の「ひとり会」を収録している。色気よりも才気と凄味のきわだった噺を聞かせていた頃である。落語ファンなら是が非でも欲しいボックスだ。対談のゲストにアダチ龍光や桂文楽、桂枝太郎を迎えている談志の芸論列伝シリーズは興味深いおまけで、談志の志向する話芸がそこに垣間見える。特典CDの“談志・円鏡歌謡合戦”(ニッポン放送音源)はマニア必携のもの。
ちょっとお色気の入ったお噺「なめる」が、下品にならないところはさすがの圓生。女性の描写がひたすら感心するほどにうまい。「甘四考」では大正や昭和初期あたりを知る人なら懐かしい描写が続々。当時の風俗のおかしさを知る粋人ならではの快作。
坊主が着ている錦の袈裟をふんどしにして吉原にくりだす「錦の袈裟」は、昔は露骨に「ちん輪」とも言っていた噺。弟が商売の元手を借りに行ったら三文しか貸さない兄との関係の描写から夢の中での会話など、演者の力量がもろに出てしまう「鼠穴」は逸品。
三題とも高座にかける人があまりいない噺で、圓生の抜けた穴の大きさを改めて実感する。「猫忠」の化け猫の台詞まわしなどは、もう語れる人はいないだろう。昭和の名人の貴重な記録として大切にしたい。“藝談”は別に組み込んでほしかったけど。
「派手彦」は、42歳で性に目覚めたというオクテの番頭が、純愛一途で結構した踊りの師匠が旅へ。番頭は悲しみのために石に化す。まくらの面白さや番頭の細かい描写は、圓生独特のもの。また「引越しの夢」は、昔の大店の様子を生き生きと描いている。
関東では実感するのがいまひとつ難しいものの、地元・関西における京山幸枝若の人気には絶大なものがある。二代目と虎造のような爽やかなまでに豪快なけれん味には欠ける分、滑らかな語り口が醸し出すノリのよさ、なるほど浪曲ばかりか河内音頭でも高い人気を誇っただけのことはある。そんな幸枝若が肝臓ガンで没する2年前、平成元年に実況録音された演目にスタジオ録音を加えて完全版としたのが今作。じわじわと盛り上げる語りの素晴らしさはもちろん、関東のそれとは微妙に一線を画した巻き舌の美しさに感嘆。★
落語の中でも枕の部分が楽しいとグングン引きつけられるものだが、圓生の絶妙な味が生かされた枕をこのCDでも堪能できる。またバカ殿モノである「蕎麦の殿様」も、たっぷりと笑わせてもらった後で何か心に暖かいものが残る。本人による解説も収録。
圓生師が亡くなる4年前、昭和50年に録音された3作、「代脈」「田能久」「茶の湯」が収められている。この盤に限っていうことではないが、ライナーに「内容は伝承古典落語ですので現社会には実在しません」とある。こうした噺をさらりとこなせる名人はそういない。
圓生百席の聴きもの、楽しみの一つがお囃子とその選曲だ。中でも子供の頃から義太夫を語っていた圓生ならではの噺「豊竹屋」(75年)で、さすがの“猿迴し”を使っている。民話風のとぼけた噺「夏の医者」(74年)は、テケレッツのパァとしめている。
「中村仲蔵」は六代目後期の自信作。芝居の知識が“常識”ではなくなった時代にこの手の噺を演じるのは難しいが、さすが六代目、流れを断ち切ることなく解説を巧く溶け込ませて噺を運ぶ。学校ではあまり教えてくれないことを教えてくれる落語は素晴らしい。