アウェイクニング
セイクレッド・ライクが23年ぶりのニュー・アルバムをリリース!
昨年マシーン・ヘッドを脱退したデイヴ・マクレインを迎えて製作された5thアルバム
『アウェイクニング』は、名作『The American Way』(90年)を彷彿させる会心の出来。
セイクレッド・ライクが23年ぶり(!)、5枚目となるアルバムをリリースする。アリゾナ出身のセイクレッド・ライクが結成されたのは、85年のこと。
86年に『Draining You of Life』デモが一躍話題になったかと思うと、あっという間にメタル・ブレイドとサイン。
87年にはファースト・アルバム『Ignorance』をリリースと、非常に速いペースでデビューを果たしたバンドである。
ブラック・サバスからMDCと振り幅の広いカバーを披露していたことからもわかるとおり、彼らの音楽的スタイルは懐の深いもの。
デビュー作こそ速いナンバーが大半を占めるが、やがてスピードを抑えることで独自のスタイルを築いていき、『Surf Nicaragua』EP(87年)、
2ndアルバム『The American Way』(90年)では、ベイエリアのバンドらと同様、いわばポスト『Master of Puppets』的スラッシュ・メタルを
武器にシーンの最前線へと躍り出る。冷戦時代、アメリカとソビエトの代理戦争の舞台となっていたニカラグアを取り上げるなど、
その政治的な歌詞も彼らの大きな特徴であった。
だが、有名になるのも早かった分、その栄光も短命であったというのもまた事実。『The American Way』をリリース後、
大手のハリウッド・レコーズと契約するも、この頃すでにスラッシュ・メタルには逆風が吹き荒れていた。グランジやデスメタルという大波に、
スラッシュは飲み込まれる寸前だったのだ。そんな中、ほとんどのスラッシュ・バンドが、生き残りのためにスタイルの変更を余儀なくされていく。
セイクレッド・ライクも例外ではない。93年の『Independent』では、さらにスローダウン、グルーヴ・メタルへと接近。
メタル・ブレイドへの出戻りとなった96年『Heal』でも、残念ながら時代の逆風には逆らえず、00年にバンドは解散してしまう。
そんな彼らも、06年に再結成。12年には『Live at Wacken』という、その名の通りヴァッケン・オープン・エアでのライヴ映像作品をリリース。
ついに「新作を作ろう」という意欲が芽生えてきたのが18年になってから。そうなると仕事の速いのがセイクレッド・ライクだ。
あっという間に23年ぶりの新作、『アウェイクニング』を完成させてしまった。復活作となると、気になるのがそのメンバーだが、心配ご無用。
ベース/ヴォーカルがフィル・リンドなのは当然として、リード・ギターもアルバム皆勤賞のワイリー・アーネット。
そして、ドラムは昨年マシーン・ヘッドを脱退したばかりのデイヴ・マクレイン。デイヴはもともとセイクレッド・ライクのドラマー。
『Independent』、『Heal』の2枚に参加したのち、マシーン・ヘッドに参加するためにバンドを脱退したわけであるから出戻りである。
一方、バンドに新風を吹き込んでいるのが、セカンド・ギタリストのジョーイ・ラジヴィル。
彼は若干22歳。つまり前作リリース時には、まだ生まれてもいないのだ!
古巣のメタル・ブレイドからリリースとなる本作であるが、肝心の内容はというと、「俺たちをずっとサポートしてくれてきたオールドスクール・ファンを
称えるような速くてヘヴィな作品」とフィルが言うとおり、これがセイクレッド・ライクでなくて何であろうという仕上がり。
名作『The American Way』の21世紀版とでも言うべき内容である。「覚醒」というタイトルが示すとおり、
現代社会の問題点を切り取る視点の鋭さも相変わらず。まさにスラッシュ・メタルが、悪魔と初期衝動だけの音楽ではなくなっていった、
あの時代へとタイムスリップしたような気分にさせてくれるアルバムである。百戦錬磨の3人、そしてフィルが「あいつの右手は電動のこぎりだ!」と
絶賛する若いジョーイによる演奏は実にタイト。フィルのヴォーカルが、力強く進化しているのも印象的。
「みんなもこの作品を気に入ってくれるといいな。でも、仮にこれが大失敗になったとしても関係ないよ。
俺たちは自分たちがどんなものを作り上げたのか、はっきりわかっているからね」というフィルの言葉に、その自信のほどが伺える。
【メンバー】
フィル・リンド (ヴォーカル)
ワイリー・アーネット (ギター)
デイヴ・マクレイン (ベース)
ジョーイ・ラジヴィル (ドラムス)