発売元 : 日本伝統文化振興財団
41歳という若さで世を去った七代目小柳枝(1921?62)による、古典落語四題。生真面目な中のひょうげた対話で笑いを取る芸風で、酔っぱらいの描写には特にいい味があり、「子別れ」「馬の田楽」のサゲなど思わずつられ笑い。「強情灸」でのとぼけっぷりもいい。
八代目桂文楽の弟子で、東京水道局の職員から噺家へ転じた三升家小勝の昭和30?40年代ならではのラジオ音源(ラジオ京都、TBSラジオなど)を集めているシリーズで、その多くの噺が初商品化という貴重盤である。師匠である文楽の口調にメリハリを利かせた感じのテンポによる小勝の明るい口調が特徴だろう。水道局時代の体験話を元にした「水道のゴム屋」やサラリーマン経験があればこその「操縦日記」などの新作落語と、「真田小僧」「壺算」などでくすくすと笑いが湧いくる古典落語の両方を好演している。
信時潔はドイツで学んで、ドイツ・ロマン派の書法をしっかりと身につけ、山田耕筰と並ぶ日本作曲界の重鎮とされてきた作曲家だが、多くの音楽ファンにとっては、今や「海ゆかば」くらいしか知らない存在だろう。ここには、合唱曲や唱歌、器楽曲から社歌、校歌、NHKの放送開始の音楽まで入っている。カンタータ「海道東征」の初出録音をはじめ、日本人初のチェンバロ作品など、貴重で興味深い録音、作品が多い。なかでいちばん興味深かったのは戦時下の作品群だ。ディスク5と6にまとめられている。大政翼賛会の標語「此の一戦 何がなんでもやり抜くぞ」にまで作曲しているのだ。それと、上記の「海道東征」をはじめとする紀元二千六百年祭関連作品など、考えさせられる。これは、戦前戦中を中心に録音されたものをほぼ網羅し、SP盤と金属原盤から復刻した画期的なボックスである。
若手バリバリのピアニストなら、もっと鮮やかな技のキレを聴かせたり、自分の“解釈”を強調したりもするだろう。しかし江戸京子は、長い演奏経験により育まれたものを、揺るぎない確信と落ち着きをもって、決然孤高に示していく。まさに大人の芸である。
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日本伝統文化振興財団1957?70年に作曲された現代曲を伝統楽器で演奏している。70年に相澤昭八郎プロデュース、菅野沖彦エンジニアで録音された現代邦楽の名盤の復刻だ。今日の現代邦楽の根幹をなす曲ばかりで、演奏者も同様にその後の現代邦楽を牽引した演者・グループたちだ。
宮城道雄といえば、「春の海」などで知られる箏の名演を連想するけれども、こちらはもうひとつの才能である文章力を活かした随筆集をCD化したものである。いずれも戦後の昭和22年から31年までに出版された作品で、大塚道子、小川真司、中谷一郎、野中マリ子というベテラン俳優による落ち着いた朗読でまとめている。今や歴史的な人物の名前が登場したり、漫才師が鼓を持って演じていたりする、時代を感じさせる記述が興味深いし、関東と関西で雨の音が異なるなど、鋭敏な感性や音楽的な姿勢に触れることもできる。
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日本伝統文化振興財団合唱人には超有名作曲家、木下牧子の歌曲集。最初の歌曲集である「晩夏」から2008年に初演された「父の唄」まで、彼女の思い入れの強い歌曲集三つが選ばれている。三人の歌手はそれぞれに、作品を掌中に取り込んで、的確な表現をしている。小原孝の雄弁なピアノが印象的だ。
1953年?76年にかけて録音されたアイヌ・北方民族の伝統舞踏、伝統歌、ユーカラ、神送りをはじめとしたさまざまな伝統儀式などを収録した歴史的音源の完全復刻、初CD化作品。録音年代を見てもわかるとおり、当然のことながらすでに失われてしまったものもあり、本当に貴重な記録だと言える。しかもアイヌだけでなく、樺太アイヌや、北方民族のオロッコ(ウィルタ)、ギリヤーク(ニヴフ)の伝統芸能やシャーマンの祈りなども聴くことができる。時代とともに次第に失われていくアイヌの言葉や歌、踊り……。後世に残したい大切な文化遺産だ。★
ノイズレスSPアーカイヴズ・シリーズとして、1956年に人間国宝に認定されるなど近年の長唄の名人として知られる七世芳村伊十郎の昭和13?14年、四世金五郎、九世伊四郎時代の音源が初復刻・CD化された。3枚とも30歳代半ばの若さに円熟味が徐々に加わり始めた時期だけに、後の伊十郎節の基盤がどのようにつくられていったかを知るうえでも貴重な音源。歌舞伎好きを自認する若い世代にも、その面白さをより実感するために長唄を聴いてほしいところ。3枚いずれも、お馴染みの作品が収録されているので、決して敷居は高くないはず。