著者 : イーヴリン・ウォー
戦争の大義は何処へ、三部作最終章。激戦地クレタ島脱出から二年が経ち、ガイ・クラウチバック大尉はロンドンで無為な日々を送っていた。王立矛槍兵団の戦友たちが戦地へ向かうなか、もうすぐ四十歳という年齢を理由にひとり後に残されたガイは、開戦時に抱いた崇高な大義を見失いつつあった。一方、クレタ島でガイの命を救ったリュードヴィック曹長はいまや情報軍団少佐に昇進し、戦場で書きとめた覚書きに基づく『瞑想録』の出版を画策中。ガイの元妻ヴァージニアは予期せぬ妊娠に途方に暮れていた。ついに情報将校としてイタリア方面への派遣が決まったガイは落下傘降下訓練に参加するが、訓練中の負傷で療養生活を送るはめに。不運続きのガイの戦場は一体どこにあるのか…。自身の軍隊体験をもとに、戦争の醜悪かつ滑稽な現実と古き理想の崩壊を描くイーヴリン・ウォー最後の傑作“誉れの剣”三部作完結篇。
コマンド部隊結成からクレタ島攻防戦へ。ガイ・クラウチバックが戦地アフリカから戻ると、ロンドンはドイツ軍の空襲下にあった。新たに編成されたコマンド部隊に配属されて訓練地の島へ向かったガイは、元妻の二番目の夫トミー・ブラックハウス、王立矛槍兵団を追放された優さ男トリマーら旧知の面々と出会い、同僚アイヴァ・クレア大尉の紳士らしい超然とした態度に感銘をおぼえ親しくなる。やがて命令違反の処分もうやむやのまま旅団長に復帰したリッチー=フック准将の下、部隊はイギリスを出発し、ケープタウン経由でエジプトに到着するが、現地で合流するはずの旅団長は行方不明で、待機中の部隊の士気は下がるばかり。そしてついにガイの所属する隊にクレタ島攻防戦への出動命令が下った…。戦争の愚かしさ、恐ろしさとともに英国階級社会の変貌を描くイーヴリン・ウォー畢生の大作“誉れの剣”三部作第二巻。
第二次大戦を描いた最高の英国小説。カトリックの旧家出身の紳士ガイ・クラウチバックは結婚に失敗し、イタリアの別荘で隠遁生活を送っていたが、ナチス・ドイツの擡頭にヨーロッパ情勢が風雲急を告げると、今こそ大義に身を捧げる時とイギリスへ帰国する。やがて第二次世界大戦が勃発、ガイは入隊先を求めて運動するが、軍隊経験のない三十五歳の中年男を採用しようという隊はなかった。それでもなんとか伝手をたどって伝統ある連隊に見習士官として入隊し、アフリカ帰りのアプソープや年下の若者たちと共に訓練を受けることになるが…。戦争のメカニズムに巻き込まれた人々の滑稽でグロテスクな生態を、真面目な思索と辛辣な諷刺、時にスラプスティックな笑いのめまぐるしい交錯のうちに描いたイーヴリン・ウォーの名作“誉れの剣”三部作の第一巻。ジェイムズ・テイト・ブラック記念賞受賞作。本邦初訳。
転地療養の船旅に出た中年の作家ピンフォールドは、乗船早々、どこからともなく聞こえてくる騒々しい音楽や怪しげな会話に悩まされる。声はやがて作家の悪口となり、さらには襲撃計画まで…。姿なき敵に翻弄される小説家の悪戦苦闘を皮肉なユーモアをまじえて描いたウォー晩年の傑作を、吉田健一の名訳で贈る。
「古昔は人のみちみちたりしこの都巴いまは悽しき様にて坐し」。ひさしぶりに再会したセバスチアンは、別人のように面変わりしていた。崩壊してゆくブライズヘッド邸とその一族ー華麗な文化への甘美なノスタルジア。英国の作家ウォーの代表作。
第二次大戦中、物語の語り手ライダーの連隊はブライズヘッドという広大な邸宅の敷地に駐屯する。「ここは前に来たことがある」。この侯爵邸の次男で大学時代の友セバスチアンをめぐる、華麗で、しかし精神的苦悩に満ちた青春の回想のドラマが始まる。
社交界のスノビズムを嫌悪し、片田舎の城館に若くして隠棲するトニィ。平穏な日々をおくる彼はしかし、美しい妻の心が次第に自分から離れて行くのを知らなかった…。息子の死をきっかけに知る妻の情事、館を去る彼女、離婚の手続きのために今度は彼が演じる浮気の芝居ー物語は急展開し、トニィはアマゾンの奥地へ向う探検行へ。そして熱病にかかり死線をさまよった彼を待ち受けていたのは、奇怪なディケンズ狂の老人だった…。「美しい郷愁の世界」と醜い現実とのはざまで、心ならずも悲しきファルスを演じるはめになる主人公に、個性ゆたかな脇役たちを配し、緻密な文体で描いた、イーヴリン・ウォーの最高傑作を、清新な翻訳でおくる。アメリカの雑誌連載時の「もうひとつの結末」を付した。
「あなたも学校の先生におなりで。素行不良で退学の学生さんは大半がそうですから」。学友の乱痴気パーティに巻きこまれ、あげくに放校処分をくらってしまったポール・ペニーフェザー君。わけ知り顔の門番の言葉におくられ、教職斡旋所の門をくぐるが…。かくして我らが主人公の多事多難な人生航路が始まる。絶妙のユーモア小説。