著者 : ケイト・ヒューイット
マルゴは恋人のギリシア富豪レオに、いきなり求婚された。一族の大企業を率いる彼は、跡継ぎをもうける決意をしたという。母親にないがしろにされ、里親を転々として育ったマルゴは、愛する人にはいずれ見捨てられることを思い知っていた。だからこそ、自分は誰とも愛に基づく関係は築けないのだと悟り、やむなく求婚を断ると、レオは最後に体を奪って去っていった。そのときに彼が見せた瞳の冷たさは、本当の終わりを告げていた。だが1カ月後、マルゴは体に変調を覚えた。まさか、赤ちゃん…。予期せぬ事態に、彼女は途方に暮れた。愛を注がれずに育ったからこそ、子供には両親の愛を与えたい。でも、今さら彼にどう告げたらいいの?
最愛の父の死に打ちひしがれていたリンジーは、五番街を彷徨うなか、ギリシア富豪アントニオスと出会い、めくるめく恋に落ちた。それが、悲劇の始まりだったー夢のような蜜月を経て結婚し、ギリシアでの新婚生活が始まったが、異国の花嫁を待っていたのは、彼女を白眼視する冷たい家族と、慣れない上流社会の洗礼だった。夫は仕事しか愛さず、孤独に耐えかねたリンジーは母国に逃げ帰った。やがて、アントニオスが半年間の沈黙を破り、彼女を連れ戻しに来た。「余命わずかな母のためギリシアに戻れ。これは夫としての命令だ」わたしを愛しているから戻ってほしいわけではないのね…。リンジーは失望しつつも、わずかな愛の残骸にすがり、要求をのんだ。
「君の気持ちなど関係ない。あれはただのセックスだ」富豪アレコスの冷淡な言葉に、イオランテの心は凍りついた。初めての舞踏会で王子様のようにハンサムな彼と出会い、薔薇色の将来を夢見て純潔を捧げた直後のことだった。それ以上の話をする間もなくイオランテは横暴な父に連れ去られ、傷物と罵られながら欲得ずくの政略結婚を強いられた。10年後。名ばかりの夫が事故死して9歳の息子と取り残され、困窮したイオランテは藁にもすがる思いでアレコスを訪ねる。「私の息子は夫の子じゃない…あなたの子なの」
7年前に起きた悲劇のせいで長らく引きこもっていたナタリアは、最愛の祖父がかつて手放した家宝の詩集を取り戻すため、勇気を振り絞ってギリシアへ飛んだ。だが、詩集の持ち主の億万長者アンゲロスと対面するなり、彼の幼い娘のナニー志願者と決めつけられ、雇われてしまう。正体を偽ったまま屋敷で暮らし始めたナタリアは、娘にも冷淡で人を寄せつけようとしないアンゲロスにしだいに惹かれていく。ある嵐の夜、ついに彼女は想いを抑えきれず彼の胸に飛びこむが、もう誰も愛さないと、にべもなくはねつけられて…。
家政婦のオリビアは、国王アジズに突然呼び出された。アジズは2日後に結婚を控えている身だ。しかし、婚約者である隣国の女王が誘拐され、行方不明だという。その身代わりとして、国民の前に姿を見せてほしいというのだ。いくらなんでも無茶すぎるけれど、一国の君主にノーとは言えない。結局、オリビアは未来の王妃を装ってアジズの隣に立った。急場しのぎの演技なのに、歓迎する民衆の前で彼は熱く唇を重ねた。ずっと男性を避けてきたオリビアにとって、衝撃のキスだった。私は偽物。どんなに焦がれても、本物の花嫁はほかにいる。ところが、アジズの許嫁は何日経っても見つからず…。
メイドのルチアは、アンジェロ・コレッティにとって唯一の友人だった。シチリア名家の婚外子として蔑まれ、孤独なアンジェロに、ルチアは幼い頃から寄り添い、支え、慰めた。ある夜、たった一度だけ、二人の情熱が交錯する。だが翌朝、彼は忽然と姿を消してしまい、ルチアの愛は報われぬまま、授かった小さな命までも流産で失うという悲劇に終わったのだった。7年後、アンジェロがシチリアへ戻ってきたとき、ルチアはつい、彼が迎えに来てくれたのかもしれない…と淡い期待を抱いた。だが、何も知らない彼は、メイド姿のルチアに平然と言った。「そんな仕事の代わりに、破格の給料でぼくの世話をしないか?」