著者 : ジェニー・ルーカス
「ほんの数時間、ぼくを愛しているふりをする。それだけでいいんだ」恋人だった元上司ガブリエルの提案に、ローラの心は揺らいだ。しかも報酬は100万ドル。息子のロビーに苦労させずにすむ。ガブリエルは失った父親の会社を以前から買い戻そうとしていた。その会社がついに売りに出たのに、大きな問題があった。売り手の大物実業家の婚約者がガブリエルのかつての恋人だというのだ。彼は実業家の嫉妬を和らげて取引を成功させるため、ローラにひと晩だけ恋人役を演じてくれと言っている。でも、わたしは嘘をつき通すことができるだろうか。ひとりで育ててきた、かわいい息子の父親であるガブリエルに…。
レストランでウエイトレスをしていたキャリーは、伯爵の称号を持つ精悍な企業家テオ・サンラファエルにひと目で恋をした。だが、つかの間の情熱を分かち合ったあと愛の言葉を口にすると、冷酷にも彼はキャリーを捨ててフランスへ帰国してしまった。1年後、絶望の中で密かに産み育てていた息子ヘンリーを、テオの使者が迎えに現れた(『愛を知らない伯爵』)。かつてクレアはギリシア人の大富豪ザンダー・アナケトスの恋人だった。しかし妊娠の事実を打ち明けようとした晩、ザンダーから別れ話を切りだされ、傷心のクレアは何も告げずに彼の前から姿を消した。4年の歳月が流れたある日、偶然ザンダーと再会したクレアは、息子の存在を知られてしまい、激怒した彼に結婚を迫られるが…(『ふたたびのカリブ海』)。3年もわたしと息子を放っておきながら、なぜ今さら現れたの?別居中の夫アンゴロスとの再会に、ジョージーはうろたえた。電撃結婚ののち、義母にいじめられていたわしたが身ごもると、ほかの男の子供と決めつけ、冷酷に追い払った夫。今になって息子を自分の子と認め、戻ってこいと言うなんて、あまりに身勝手だわ。でも…(『疑われた妻』)。
7月の夕方、ベルはマンハッタンの高級住宅の前で震えていた。妊娠を伝えたのに、大富豪アンヘルはわたしを追い払った。大切なバージンを捧げた男性から、金めあてと罵られるなんて。失望したベルは、泣きながら故郷テキサスへと車を走らせた。けれど実家とともに見えてきたのは、黒いヘリコプターと…アンヘル!どうしてわたしを追いかけてきたの?彼はベルに、おなかの子のDNA鑑定を受けるよう迫ってきた。さらには、使用人でも見るような目で冷たくこう言い放つ。「赤ん坊がぼくの子なら、きみもぼくのものだ」
グレースは走り去る高級車がはねた泥水を浴び、尻餅をついた。なんてこと…上司が恋人へ贈る高級下着を台なしにしてしまった。茫然とするグレースに救いの手を差しのべたのは、先ほどの高級車から降りてきた男性、マクシム・ロストフだった。彼はお詫びだと言って上司のプレゼントを弁償したうえ、グレースにも高価なドレスを買うと、パーティにまで誘ってくれた。すばらしくハンサムで、王家の血を引くというマクシムと、夢のようなひとときを過ごしたグレースは、何も知らなかった。彼がグレースの上司を陥れるためにわざと待ち伏せしていたことを。そしてその一夜の代償として、彼の子を宿してしまうことを。
その夜、メイドのレイニーは強欲でわがままな伯爵夫人に従って、モナコの王族が主催する舞踏会にいた。そこで突然、世界的な億万長者カシウスからダンスに誘われる。気づいたとき、レイニーは彼のペントハウスにいた。「僕が君を喜びせられなかったら、1千万ドルやろう。だが喜びを味わえたなら、僕の子供を宿してもらう」カシウスの冷酷だが熱い誘惑に、無垢なレイニーはとまどった。バージンの身で彼に従ったのは、病弱な祖母と盲目の父にお金を送るため?それとも…彼が運命の男性だと信じたため?
「助けて!雇い主に私たちの赤ちゃんを奪われそうなの!」大聖堂に駆け込んだスカレーレットは2000人の列席者の背後から叫んだ。祭壇に立つ花婿はイタリア出身の辣腕経営者ヴィン・ボルジアー8カ月前、バーで出会った彼の魅力に抗う術もなく純潔を捧げた翌朝、彼の身分を知ったスカーレットは名前も告げずに姿を消したのだった。突然の珍客に驚きながらもヴィンは彼女を追ってきた雇い主を追い払い、政略結婚を取りやめて、スカーレットに父親鑑定と婚前契約を要求した。屈辱的でがんじがらめの条件のもとに、愛なき結婚をするなんて…。傲慢でセクシーな黒い瞳に見据えられ、彼女の心は千々に乱れた。
まさか、妊娠するなんて…。秘書のエリーはニューヨークの街中で途方に暮れていた。6時間後に結婚式を挙げるというのに、おなかの子の父親は花婿ではないのだ。この事実を子どもの父親にー傲慢でセクシーなボス、大富豪ディオゴに知らせるべきかしら?エリーは震える足を奮い立たせて、ディオゴの前に立った。だが、彼はエリーの話に耳を傾けるどころか、彼女が結婚すると知ってなじり、警備員を呼んで追い払わせたのだ。数時間後、ディオゴは真相に気づいてエリーを捜すが、彼女はすでにオフィスを去り、花嫁として教会にいた。
彼女は病院のベッドに横たわり、緊張に苛まれていた。主治医の話から、自分がイヴという名前で、車の事故のせいで記憶喪失に陥っていることは既に知っていた。そして、妊娠していることも。これからお腹の子の父親であるギリシア人富豪に会うというのに、その顔さえ思い出せないなんて…。病室のドアが開き、恋人だというタロス・クセナキスが現れた。信じられないほどハンサムな男性だが、冷たい影を感じる。どうしても記憶を取り戻せない彼女を抱きしめ、タロスが言った。「もう決して君を放さない。きみは僕の妻になるんだ!」