著者 : パトリク・マグラア
「あなたは母の愛人だったんですか?」突然現れたパイロットのひとことから愛の地獄めぐりが始まった…。ポストモダン・ゴシックの旗手、パトリック・マグラアの描くミステリアス・ロマンス。
職業医師として、年来、私は性的強迫観念が色濃く滲み出た情事の破局に関心を懐いている-本書の語り手、ピーター・クリーヴはそう語る。1959年の夏、精神科のマックス・ラファエルはロンドンからうらさびた土地にある、堅固な精神病院に副院長としてやってくる。並外れた美貌と知性をもちながらも孤独な彼の妻ステラは、そこで、狂気の彫刻家、危険な入院患者であるエドガー・スタークと宿命的な出会いをする。堰を切ったように情事に走る二人。そして作中人物たちはそれぞれに自らの悲劇を手繰り寄せていく…。
今まで現実だと信じていたものが突然得体の知れないものへと変じ、日常生活に亀裂が生じたとき人は恐怖のどん底へ突き落される。本書を読む者は、割れ鏡に映じた己れの姿を前にして目まいを憶えるように、不気味な幻想の世界へと誘われていくであろう。ハリウッドの老女優にまつわる奇妙な物語「影の商人」、日記に残されたサイコ・スリラー「焔の湖での自己洞察」、ボードレールへの猥雑なオマージュ「J」、グロテスクな御伽噺「お妃の死」他、短篇全10篇を収録。
19世紀に華々しく開花したゴシック小説。その死と恐怖に満ちた暗黒の世界は、われわれ現代人の心の中にも巣くっている。本書は現代作家によるゴシック小説を甦らせようという試みであり、新たな世紀末を飾るに相応しい異色のアンソロジーである。呪われた画家の生涯を描いた幻想譚「展覧会のカタログ」(スティーヴン・ミルハウザー)、プラスチックに覆われた奇妙な街の世界「ニュートン」(ジャネット・ウィンターソン)、平和な日常生活へのグロテスクなファルス「オヴァンドー」(ジャマイカ・キンケイド)、ポオを思わせる不気味な死の物語「におい」(パトリック・マグラア)他、短篇全9篇を収録。
イギリスの田舎の古い荘園屋敷クルック。その主人である老古生物学者サー・ヒューゴー・コールは大脳の発作により植物人間と化し、車椅子の生活を余儀なくされていた。「あの悪魔のような男フレッジを新しい執事に妻が雇わなければ、私も車椅子に座っていなかっただろう」妻と執事の仲を疑い、事実に妄想の混ざりこむ老人の話は、やがて屋敷を崩壊へと導く1つの殺人事件を語りはじめる…。
「純な魂が降臨したんだよ。魂の存在を誰も信じないこの時代に…」老人はニューヨークで出会った自分そっくりの青年“天使”について語った。ポー風の物語にはじまり、ルイジアナの美しい屋敷に住む一家の崩壊がゴシック的につづられるかと思えば、SF童話風に核シェルターでの一家族の残虐行為が“長靴”によって話されていく…。注目のアメリカの新人マグラアが、超自然物から精神分析までを巧みに使い、ゴシック小説を現代によみがえらせたエレガントで不気味な短篇集。米英でベストセラー。