著者 : フランセス・ファイフィ-ルド
数年前、偏執的な男チャールズから一方的に思いを寄せられ、命までも狙われた弁護士のサラ・フォーチュン。身も心もぼろぼろに傷ついた彼女を救ったのは、献身的な恋人マルコムだった。しかし、時が経つにつれてサラには、彼の愛がかえって重荷に感じられるようになっていた。そんな時、彼女はノーフォークの海辺の村で遺産問題を処理するように依頼される。地元の有力者パードウ氏が遺した巨額の遺産と奇妙な遺言をめぐって、未亡人と三人の子供が骨肉の争いを繰り広げているという。だが、その村はまた、かつて彼女をつけ狙ったチャールズが妻の後を追って入水自殺を遂げた因縁の土地でもあった。自らの過去を清算すべく、サラは進んで仕事を引き受けるが、そこには忌まわしい記憶をふたたび呼び覚ます、恐るべき事件が待ち受けていた。
ベッドで隣に横たわる妻のめそめそした泣き声を聞きながら、ピップは怒りと苛立ちを必死に抑え、寝たふりをつづけた。なぜこの女はセックスで愛を繋ぎとめようとするのだろう。透けたネグリジェを着ても、こちらの嫌悪感を掻きたてるだけなのに。彼が心を寄せる人は別にいた。魅力的な肢体をもつ、天使のような娘。だが、妻がいるかぎり、彼はその娘の愛を知らずに終わるだろう。殺意は一瞬のうちに形をとり、鮮明な光景となって脳裡に広がった。やるならいまだ…。弁護士ヘレン・ウェストは事件の報告書に腑に落ちないものを感じた。健康な中年女性が、原因もなしにある日突然就眠中に死ぬだろうか?検死では毒物は発見されず、死体を発見した夫ピップにも不審な点はなかった。だが、ヘレンの与り知らぬところでピップは若い娘への異常な愛を募らせ、自らの欲望を満たそうとしていた。英国女流の鬼才が放つ英国推理作家協会賞受賞作。
サラ・フォーチュンはふたつの顔をもっていた。昼間は、ロンドンの事務所ではたらく若く有能な弁護士、そして夜は、金持ちの男たちの相手をして、高価なプレゼントをうけとる美女…。サラがそういう生活を送るようになったのは、亡くなった夫が自分の妹と浮気していたのを知ってからだった。以来、彼女は貞節や名誉といったものから解放され、さえない男とつきあって相手に自信をもたせることに喜びを見出していた。弁護士のマルコムも、そういう男たちのひとりだった。彼の内面に隠された繊細さを見抜いたサラは、彼と一夜をともにし、翌朝、姿を消した。だが、マルコムは彼女を忘れられず、執拗に追いもとめた。一方、サラの知らないところでは、おなじく彼女を狂おしいまでに愛し、その行動を見つめつづける、もうひとりの男がいた。愛に絶望した女と愛に憑かれた男たちが織りなす歪んだ三角関係を、緻密な心理描写で描く異色サスペンス。
森に埋められていた女性の死体は、一糸まとわぬ姿だった。割れた額、咽にぱっくりあいた傷。いったい誰がこんな酷いことを…。被害者の身元は、地元の不動産業者の妻と判明した。発見された森で、娘の家庭教師としばしば逢引きをかさねていたという。じつは殺された晩も、ふたりは会っていた。だが、それは甘い逢瀬などではなく、別れ話のためだった。必死ですがりついてくる女を、男は思わず杖で殴りつけていた。しかし、男が認めたのはそこまでだった。泣きじゃくる女を残して、そのまま立ち去ったというのだ。弁護士のヘレンは、男がいまつきあっている女性と親しかったことから、恋人のベイリー警視の捜査と対立することになると知りつつ、自分の担当外の事件に探りをいれはじめる。静かな村にひそむ歪んだ人間関係を弁護士ヘレンが解き明かす、英国推理作家協会賞法廷ミステリ賞受賞作。