著者 : ベルンハルト・シュリンク
振り返ると、そこに忘れ得ぬ「あの日」の色がある。ドイツのベテラン作家の円熟作。年齢を重ねた今だからわかる、あの日の別れへの後悔、そしてその本当の意味をーー。男と女、親と子、友だち、隣人。『朗読者』で世界中の読者を魅了したドイツの人気作家が、「人生の秋」を迎えた自らの心象風景にも重ねて、さまざまな人々のあの日への思いを綴る。色調豊かな紅葉の山々を渡り歩くかのような味わいに包まれる短篇集。
北の果てに消えた恋人へ、あなたは誰のためにそこに行くのか。女は手が届く確かな幸せを願い、男は国家の繁栄を求めて旅に出た。貧富の差や数々の苦難を乗り越え、激動の20世紀ドイツを生きた女性オルガ。彼女が言えなかった秘密、そして人生の最期にとった途方もない選択の意味が、最果ての町に眠る手紙で解き明かされるーー。ひとりの女性の毅然とした生き方を描いて話題となった最新長篇。
もしも二人に、別の物語があったなら……一枚の絵をめぐる哀切のラブストーリー。旅先の美術館で突然再会した一枚の絵。一糸まとわぬ姿で軽やかに階段を下りてくるのは、忽然と姿をくらませた謎の女。40年の時を経て、ほろ苦い記憶が甦る。あの日、もし一緒に逃げることができたならばーー。その想いを、物語にして伝える時がやってきた。人生の終局の煌めきを美しく描く、ベストセラー作家の新境地。
シーズンオフのリゾート地で出会った男女。人里離れた場所に住む人気女性作家とのその夫。連れ立って音楽フェスティバルに出かける父と息子。死を意識し始めた老女と、かつての恋人ー。ふとしたはずみに小さな嘘が明らかになるとき、秘められた思いがあふれ出し、人と人との関係ががらりと様相を変える。ベストセラー『朗読者』の著者による10年ぶりの短篇集。
南フランスで軍用ヘリコプターの設計図翻訳の仕事にありついたゲオルクは、たまたま知り合ったフランソワーズと共に幸せな日々を送る。偶然翻訳事務所を引き継いで運が向いてきたと思った彼は、ある日、想像もしなかったフランソワーズの行動を発見して動転する。不審な男たちに設計図を強奪された彼は、忽然と消息を絶ったフランソワーズの残した唯一の手がかりを追って、単身ニューヨークに飛ぶ。だがそこで彼を待っていたのは、複雑に絡み合う巨大企業と国家の影の暗闇だった!『朗読者』『ゼルプ三部作』の作家が満を持して放つ異色の現代ドイツ・サスペンス小説の傑作。グラウザー賞受賞。
銀行頭取ヴェルカーから匿名の預金者の身元調査を依頼されたゼルプ。だが彼の調査経過報告にも上の空の頭取の態度に疑問を抱いた彼は、頭取自身を調べ始める。彼につきそう謎の男。銀行の歴史を調べていた元教師の不審な死。ゼルプを尾行する謎の男たち。そして旧東独から来たゼルプの息子と名乗る青年の登場。老探偵ゼルプ三部作の掉尾を飾る、サスペンスに満ちたドイツ・ミステリの金字塔。
行方不明の娘を探してほしいという依頼を受けた私立探偵ゼルプは、女子大生の彼女の生活から手がかりを掴もうとするが、関係者は非協力的、さらに“父”だと名乗った依頼者の男も正体不明だった。そして彼女の知人である医者が殺されたとき、闇に葬られた過去の基地爆発事件が浮上してきた…。ベルンハルト・シュリンクがあの『朗読者』に先だって一九九二年に発表し、翌年ドイツ・ミステリ大賞を受賞した話題の長編小説。
環境破壊の進む八〇年代の西ドイツで、義兄の経営する化学工業会社のハッカー追跡を依頼された私立探偵ゼルプは、調査を進めるうちに義兄と自分の過去に関わる重大な事実をつかむ。戦前ナチの政権下で検事だった彼は、過去の罪の意識を頑なに持ち続け、自ら歴史の暗闇に入り込んでいくが…。『朗読者』の作家が知人と共作した初の長編ミステリ。
最愛の妻の死後、見知らぬ男から届いた不審な手紙の謎を夫が探る「もう一人の男」。遺された一枚の絵を手がかりに、息子が父親の暗い過去をたどる「少女とトカゲ」。ほかに、妻と二人の愛人を巧みに操っていた男の悲喜劇「甘豌豆」、「ガソリンスタンドの女」など、全7篇。