著者 : リチャード・パワーズ
地球外生命を探る研究者シーオの幼い息子ロビンは、母アリッサの急逝で情緒不安定になっていた。シーオは、妻の知人が取り組むfMRI(機能的磁気共鳴映像法)を用いた実験に息子を参加させる。生前のアリッサが残した脳のスキャンデータを元に、母の感情をロビンに追体験させ、彼の精神を解放しようというのだ。その効果は目覚ましく、ロビンは周囲が驚くほどの聡明さを発揮し始め、母が生涯をかけて取り組んだ動物保護への意識も研ぎ澄まされていく。彼の眼には、人間がこの惑星にとって有害と映っていたーブッカー賞最終候補作。
南北戦争前、アメリカ中西部で、ある男が庭に栗を植えた。四世代に亘り撮影しつづけた一本の栗の木の写真を、一族の末裔である芸術家が相続する。不遇を託っていた彼が出会ったのは、セックスとドラッグに溺れたあげくうっかり感電死し、たまたま蘇生した女子大生。自分が生き返ったのは「光の精霊」のおかげだと信じている彼女に導かれ、ともに西を目指す。そこには高さ百メートル近いレッドウッド(セコイア)が聳え、大陸最後の手つかずの森が、野蛮な開発の危機にさらされていたー。樹木同士のコミュニケーションを発見する聴覚障害の科学者、中国からの移民の父を自死で喪った女性技術者、撃墜され大木に救われた空軍兵士、筋金入りの動植物好きの心理学者…互いに見知らぬ人々が、巨木の「声」に召喚され、原始林を救う戦いに集結する。現代アメリカ文学の旗手パワーズによる最新巨篇。2019年ピュリッツァー賞受賞作。
それは1914年のうららかな春、プロイセンで撮られた一枚の写真から時空を超えてはじまったー物語の愉しみ、思索の緻密さの絡み合い。20世紀全体を、アメリカ、戦争と死、陰謀と謎を描ききった、現代アメリカ文学における最重要作家、パワーズの驚異のデビュー作。
微生物の遺伝子に音楽を組み込もうと試みる現代芸術家のもとに、捜査官がやってくる。容疑はバイオテロ?逃避行の途上、かつての家族や盟友と再会した彼の中に、今こそ発表すべき新しい作品の形が見えてくるー。一人の音楽家の半生の物語は、マーラーからメシアンを経てケージ、ライヒに至る音楽の歩みと重なり合いながら、テロに翻弄される現代社会の姿をも浮き彫りにしていく。危険で美しい音楽小説。
スランプに陥った元人気作家の創作講義に、アルジェリア人学生がやってくる。過酷な生い立ちにもかかわらず、彼女はいつも幸福感に満ちあふれ、周囲の人々をも幸せにしてしまう。やがてある事件をきっかけに、彼女が「幸福の遺伝子」を持っていると主張する科学者が現れ、国民的議論を巻き起こすー。鋭敏な洞察の間に温かな知性がにじむ傑作長篇。
マークが、事故に遭った。カリン・シュルーターはこの世に残ったたった一人の肉親の急を知らせる深夜の電話に、駆り立てられるように故郷へと戻る。カーニー。ネブラスカ州の鶴の町。繁殖地へと渡る無数の鳥たちが羽を休めるプラット川を望む小さな田舎町へと。頭部に損傷を受け、生死の境を彷徨うマーク。だが、奇跡的な生還を歓び、言葉を失ったマークの長い長いリハビリにキャリアをなげうって献身したカリンを待っていたのは、自分を姉と認めぬ弟の言葉だった。「あんた俺の姉貴のつもりなのか?姉貴のつもりでいるんなら、頭がおかしいぜ」カプグラ症候群と呼ばれる、脳が作り出した出口のない迷宮に翻弄される姉弟。事故の、あからさまな不審さ。そして、病室に残されていた謎の紙片ー。幾多の織り糸を巧緻に、そして力強く編み上げた天才パワーズの驚異の代表作にして全米図書賞受賞作。