著者 : 上村悦子
これまでひたむきに勉学に励んできたキャロラインは、あまりに奥手で、異性にたいして素直にふるまうすべを知らない。そんなキャロラインが、病で倒れた同僚に代わって、男社会ともいえる仕事場に突如放りこまれることになった。そこで彼女を待っていたのは、数々の功績を築き、要求の厳しさで部下から畏れられる上役のジョー・マッケンジー。ジョーのオフィスにおもむいたキャロラインは、彼女の身元調査ファイルを手にした彼の言葉に、耳を疑った。「君は男とつきあったことがない。男ばかりのこの職場ではトラブルのもとになる。連中が手を出せないように、僕のものになれ」
18歳のミアは、両親が仕える屋敷の御曹司カルロスに恋をした。初めてキスを交わした夜、彼の母親に見つかり、“使用人の娘のくせに”と激怒され、親をくびにすると脅されて、彼女は逃げるように屋敷を飛びだした。あれから7年。こんな形で彼と再会することになるなんて。ミアの会社が取りしきる結婚披露宴に、カルロスが出席したのだ。「ミア!ミアなのか?」彼が驚きのまなざしで見つめている。全身が炎のように熱くなり、ミアの封印した恋が息を吹き返した。だがその直後、またしても彼の母親からひどい侮辱を受け、カルロスに婚約者がいることを聞かされて…。
エイミーが社長ジェイクの個人秘書になって2年、女性を大勢泣かせてきた彼の犠牲者にならぬよう慎重にふるまってきた。そんなわけで、エイミーは不実な恋人に捨てられてどん底にあっても、ボスの前では弱った姿を見せるわけにいかなかった。なのに、秘書が失恋したと知ったジェイクはすかさず、甘く優しい誘いをかけてきた。警戒を怠らないエイミーだったが、元恋人が不意に現れ、あてつけのためジェイクとの親密さを見せつけた。そしてとうとう、長年避けてきた事態を迎えてしまうー甘美な一夜を。でも、職場で気まずくなりたくない。この関係は続けられない。そうボスに告げたエイミーはやがて、彼の子を妊娠したことに気づく…。
アリスはイタリア伯爵マルコ・ヴィンセンティの屋敷で、生後6カ月の赤ん坊のナニーを務めることになった。マルコは亡くなった従弟夫婦の忘れ形見を引き取り、わざわざイギリスからプロのナニーを雇ったのだという。アリスは、彼が内に隠す深い情愛を知り、次第に惹かれていく。ところがある日、赤ん坊の母方の祖母が現れ、マルコに対し、子どもとその養育権を渡すか、さもなければ金を払えと迫る。彼は、独身の男では不利だと言い、アリスに衝撃の提案をした。「あの子を手放さずに済むよう、僕の妻になってくれないか」
十代で孤児となったレイチェルは、懸命な看病の甲斐もなく養母を亡くしたあと、裕福でハンサムなコンサルタント、ジャスティンの秘書になった。ある日、彼と訪れた出張先で、元恋人とでくわす。だが、彼女を見てもまるで気づかないのだ。無理もないわね。やつれてメイクもせず黒いスーツ姿の私では。すると、事情を知ったジャスティンが言った。「エステに行って、髪もメイクもすべて変えてみたらどうだ?」数時間後、バーのダンスフロアで待つボスの前に立った彼女は、ゴージャスな彼に見つめられたーとびきり熱いまなざしで。「今、きみと踊るのは賢明ではないな」
レイチェルが切り盛りする小さなカフェにある日、上質の身なりをした紳士が突然現れ、店内がざわめいた。誰もが知る実業界の大物、ガブリエル・ウェブー会うのは初めてだが、長身で強烈なラテンの魅力を放つ彼は、レイチェルの元恋人の父親だった。こんな場違いなところに、ガブリエルのような人がどうして?もしも息子と似ているとしたら、彼も冷徹な価値観の持ち主だろう。絶対に関わりたくないと思ったレイチェルの耳に、ガブリエルが囁いた。「とうとう君に会えてよかったよ」肉感的なぬくもりのある声…。若く見えるけれど白髪交じりで17歳も年上の彼に、いえ、それより、ひどい言葉で私を傷つけた男の父親に胸を高鳴らせるなんて…。
これまでひたむきに勉学に励んできたキャロラインは、あまりに奥手で、異性にたいして素直にふるまうすべを知らない。そんなキャロラインが、病で倒れた同僚に代わって、男社会ともいえる仕事場に突如放りこまれることになった。そこで彼女を待っていたのは、数々の功績を築き、要求の厳しさで部下から畏れられる上役のジョー・マッケンジー。ジョーのオフィスにおもむいたキャロラインは、彼女の身元調査ファイルを手にした彼の言葉に、耳を疑った。「君は男とつきあったことがない。男ばかりのこの職場ではトラブルのもとになる。連中が手を出せないように、僕のものになれ」
フラニーは看護師になる夢をあきらめ、病気の伯母と医大生の弟のために家計を支えようと職探し中。さる夫人の雑用係の求人広告を見て応募するが、面接で断られてしまう。意気消沈して帰りかけたとき、その家のメイドが負傷し、偶然現れた夫人の知り合い、ヴァン・ダ・ケトゥナー教授を手伝って、けが人に処置をほどこしてから病院へ運んだ。年上の教授に胸をときめかせるフラニーだったが、病院に着いたところで置いてきぼりにされ、とぼとぼと家路についた。その後、彼女を捜しに戻った教授と入れ違いになるとは、つゆも思わず。
嵐にあい、船が沈没して、ローズだけがその島に流れ着いた。全裸で苦しむ金髪の美少女ローズを生け贄のように抱えて、島民たちは、白人の大富豪ジャイルズが住む屋敷へと運んだ。献身的な看病の果てに、ローズはなんとか息を吹き返す。ところが目覚めたとき、とっさに記憶喪失のふりをした彼女に、ジャイルズが言い放ったのだ。「君は僕の妻だ」と。さらには彼の娘までが「ママ」と呼び、抱きついてくる。とある事情から、素性を明かすわけにはいかないローズは、食い入るように、底知れない大富豪の瞳の奥を見つめていた…。
代々続く家業の香水メーカーで調香師をしているサディは、生産量は少なくとも丁寧に作った香水に誇りを持っていた。だが祖母が亡くなり、筆頭株主となったいとこのラウールが、世界的な有名企業に身売りをしようと動き出す。何事も合理的な大企業のもとでは、大切な伝統がすたれてしまう…。サディは話し合いをするために、ラウールのオフィスへ向かった。ところが足を踏み入れたとたん、その場に凍りついた。目の前にいたのは、以前、香水の見本市で会った傲慢な男性ーサディのことを“売り物か”と蔑んだ実業家、レオニアディスだった!
ジュリアーナと富豪のブレイクは、“友人同士”の夫婦だ。互いの便宜を図り、世間体と財産を保つために結婚した二人は、ベッドでの相性もよく、安定した関係を築いていた。そんなある日、ブレイクの乗った飛行機が行方不明になり、彼は結局ぶじ戻ったものの、ジュリアーナは半狂乱になった。夫は友人なんかじゃない…わたしは、彼を愛している!問題は、気づいてしまったその気持ちを伝えられないこと。ブレイクは妻に愛されることを望んでいない男なのだ。告げられない想いを胸に秘め、彼女はその夜、奔放に夫を愛した。皮肉なことにブレイクは、妻の変化を不倫の兆候だと思い込みー
男性の目を引くセクシーな容姿が、セリーナには悩みの種。軽い女に見られるが本当は奥手で、目立たないように生きてきた。ある日、彼女が働くレストランに、ビジネスマン風の客が訪れた。ハイスクール時代の憧れの先輩、アーロン・キングズリー!17歳の頃、酔った少年たちに絡まれ、助けてもらったことがある。あれからずいぶん経つけれど、私をまだ覚えているかしら?昔どおりの魅力の上に、成功した者特有の雰囲気をまとった彼は、セリーナに気づくと興味深そうに彼女の全身を眺めまわした。彼も他の人と同じねーセリーナは失望を隠して接客するが…。
フィットネスクラブに勤めるメリッサは、ネット検索したエリオット・ジェイの略歴に目を凝らした。経済界の大物。32歳にして投資銀行の経営者…。でも家族や私生活についての情報はない。つまりお金儲けにしか興味のない、非情な銀行家ということだ。そんな彼が娘の体調管理の仕事を依頼してきた。その娘というのが14歳!隠し子がいたことすら驚きなのに、いったいいくつのときにできた子供なの?面接で会ったエリオットは予想どおり仕事一筋の傲慢な冷血漢だった。いくら高額の報酬を提示されても頭では断るべきだとわかっている。なのに、メリッサは危険と知りつつ好奇心を抑えられなくなっていた。
「本文」は宮内庁書陵部蔵桂宮本「蜻蛉日記」上・中・下3巻を底本とした。底本の誤脱と認められる個所は、他本・諸家の考勘を参考にし、あるいはさらに筆者の私見を加え、最も妥当と思われる本文に改訂した。