著者 : 上田なつき
マヤは12年ぶりに故郷ノルウェーに帰ってきた。18歳のとき、彼女にはイェンスという恋人がいた。交際に反対する権力者の父親から守りたくて彼とは別れたけれど、外国へ行ってからも忘れたことは一日もなかった。そのイェンスは今や億万長者の実業家として成功している。そして再会するなり、信じられないことを口にした。「君は僕と結婚すると約束した。その約束を果たしてもらいたい」マヤは知る由もなかった。イェンスが花嫁を教会で捨てる気なのを。12年前よりも彼を愛していると悟り、富豪の目に夢中だった。
「やめるんだ、今すぐに」礼拝堂に男性の声が響き渡り、エミーはおなかのふくらみがめだつ不格好な花嫁衣装で振り向いた。テオは数カ月前まで憧れのボスで、純潔を捧げたギリシア富豪だ。だが彼が自分などを愛するわけがないと思い、エミーは妊娠に気づくとなにも言わずに会社を辞めた。そして近所の詮索から家族を守り、子供を育てるために、父の友人との結婚を決意した。今日はその結婚式当日だった。テオはかつての秘書の結婚に異議を唱えただけではなかった。花婿を追い払い、自分が花婿としてエミーの唇を奪った!
母親が娘の名で作った莫大な借金に、ヤナは途方に暮れていった。そこへ現れたのがかつての義兄、富豪ナジールだった。「君が必要なんだ」そう言うと彼は借金の清算と引き換えに、妻の死以来、心を閉ざしてしまった幼い娘の世話を頼んできた。忘れたい初恋の記憶がよみがえり、ヤナは気を失ってしまう。19歳のとき、私はナジールに純潔を捧げようとして拒絶された。その後彼は結婚し、病気で妻を亡くしたが、彼女は私の親友だった。決して振り向いてくれない人と一つ屋根の下で暮らすのはつらすぎる。けれどヤナはわかっていた。彼のためなら自分がなんでもすると。
ギリシア富豪ヴァシリから「君が欲しい」と言われたとき、その率直な言葉と男らしい魅力に、ローラは胸の高鳴りを覚えた。だから男性不信だったにもかかわらず、彼を信じて純潔を捧げた。けれど出会って5日目、ヴァシリは急にギリシアへ帰ってしまった。一人残されたローラは、なにげなく彼をネットで調べて愕然とした。ヴァシリが帰国したのは婚約している女性と結婚するためだったのだ。失意と屈辱の中、彼女はヴァシリの電話番号を着信拒否にした。だが3カ月後、ヴァシリはローラの前にふたたび現れた。「君は妊娠しているだろう。それなら結婚が唯一の解決策だ」
雨の夜、ウエイトレスのコニーは富豪ダンテの車に乗せられていた。認知症の祖母をかかえ、家を立ち退くよう迫られていた彼女は、切羽詰まって思わずダンテにその事情を打ち明けてしまう。彼は意外な返事をしたー自分と結婚してくれるなら、家の権利証を君のものにし、介護にかかる費用も負担しようと。コニーは驚いたが、これ以上ない申し出にダンテの求婚を受け入れた。結婚してからも二人はイギリスとイタリアで別居生活を送っていたが、いつしか彼女はある望みか胸を焦がしているのに気づいた。プレイボーイのダンテが私になんの興味もないのはわかっている。でも一度でいいから、夫に女性として求められてみたい…。
エマは里親を転々とし、誰にも愛されずに苦労しながら成長した。だからイタリア富豪ニコとも、いつかは別れると覚悟して結婚した。しかし、彼との別れは意外なものだった。結婚後1週間で、彼は飛行機事故により帰らぬ人となってしまったのだ。エマは涙にくれたが、たちまち生活に困窮するようになって、やむにやまれず親切な男性とのプラトニックな結婚を決意する。ところが結婚式当日、亡くなったはずの夫ニコが教会に現れて叫んだ。「異議あり!」怒りの形相とともに彼は花嫁のエマに詰め寄ってきた。実は、彼女にはどうしても結婚しなければならない理由があった。おなかに宿った命ーニコの子供を産んで育てるために。
気づいたとき、ビアンカはたくましい腕に抱きあげられていた。飛行機が不時着し、同乗していた富豪クサントスに助けられたのだ。雪山の小屋で一夜を明かし、救出されて見知らぬ土地で過ごすうち、恋愛経験の少ないビアンカは冷酷だが魅力的な彼に惹かれていった。そして熱く誘惑されて純潔を捧げたあとも、彼と会いつづけた。都合のいい女になりたくなかったが、一緒にいたい気持ちは強すぎた。妊娠したときは、子供を望まないクサントスに伝えるのが怖かった。案の定、非情な富豪は他の男を夫にしろと告げ、彼女は悲嘆に暮れる。ところが、一人寂しくイブを過ごすビアンカを彼が訪ねてきて…。
ヘリコプターが着陸し、アリシアは必死に仕事用の顔を作った。彼女を待っていたのはスペイン富豪グラシアーノー10年前に純潔を捧げて以来、一度も会っていなかった男性だ。機体から降りようとしたアリシアは緊張のあまりぶざまに転び、グラシアーノに抱きあげられて彼の家へ運ばれた。手当てをされる間、アリシアは10年前に戻った気分だった。相変わらずグラシアーノは自信と気品にあふれている。でも以前、この人は私に「二度と電話をするな」と言った。だからグラシアーノは知らない。一度だけ結ばれたあの夜、私が妊娠したことも。彼には今、9歳になる娘がいることも。
エマは家族の中の、いわゆる“醜いあひるの子”だった。姉にも妹にもやさしい父は、彼女にだけつらく当たる。だが、次期伯爵のアレックスが舞踏会で見初めたのはエマだった。美しい姉の目の前で選ばれ、彼女は驚きを抑えられなかった。アレックスから所有する豪勢なアパートメントへ誘われ、二人でめくるめく一夜を過ごす間、エマは夢の中にいる気分だった。翌朝、携帯電話に“何をしているの?”“家に顔を出しなさい”“パパはかんかんよ”と家族からメールがしつこく届くまでは。アレックスとの関係に永遠なんてないのは承知している。でも、私にはつかの間の恋をすることさえ許されないの?
「君との間に子供を作るようなまねはしなかったはずだ」イタリア富豪ラファの言葉に、アイヴィーはひどく傷ついた。最後の蓄えを使ってローマまでの格安航空券を買ったのは、亡き姉が育てていた子の父親に会いに行くためだった。しかし、父親のはずのラファはアイヴィーを赤ん坊の母親と誤解して事実無根だと否定し、彼女は追い払われてしまう。十代で白血病になってから、私は恋愛も出産もあきらめた。女らしさはなくしたと思ったのに、なぜあんな人に胸がときめいたの?ところがその後ラファは再び現れ、アイヴィーに結婚を迫ってきた。そしてとまどう彼女に熱い視線を向け、無垢な唇を奪って勝ち誇った。