著者 : 中嶋浩郎
「何が起こったのかまったく知られていなかった。宣教師たちの手紙はどれも寡黙だったし、それを否定できたかもしれない数少ない文書は削除され、あるいは失われてしまった。確実に知られていたのは、ヨーロッパ人が日本で茶の湯という不可解な儀式を発見したということだ」。時は1579年(天正7年)。大航海時代のイエズス会宣教師アレッサンドロ・ヴァリニャーノと東方貿易商人のアルヴィーゼ・モーロ。戦国時代の日本にたどり着いた二人のイタリア人の思惑と行動が、西洋(キリスト教)と東洋(茶の湯、禅仏教)の最初の出会い、そしてその後の断絶をもたらした。大友宗麟や高山右近といったキリシタン大名をはじめ、織田信長、千利休、豊臣秀吉との息詰まる交渉も描く、壮大な歴史小説。
エーコ、タブッキ、カルヴィーノだけじゃない、 もっと新しいイタリアの文学がここにある。 本邦初、21世紀イタリア短篇アンソロジーがついに登場! 13人の作家(うち11人が日本初紹介)による15の物語。 序文=小野正嗣 現代イタリア文学と聞いて思い浮かべるのは、エーコ、タブッキ、カルヴィーノ、ブッツァーティ、モラヴィア……しかし彼らがおもに活躍していたのは前世紀のこと。では、イタリアの文学は衰退したのかといえば、とんでもない、なぜこれまで紹介されてこなかったのか不思議に思える作家たちが山ほどいるのだ。本書はいまを生きる新しいイタリアの作家によるヴァラエティ豊かな作品を厳選した、本邦初の21世紀イタリア短篇アンソロジーである。普通の人々の生活に降りかかる移民・格差・人種問題、新しいセクシャリティのかたち、めくるめく幻想の世界、そして甘くほろ苦い少年少女時代の記憶ーー現在のイタリア文学シーンを代表する13人が繊細に大胆に鮮烈に描く多様性にみちた15の短篇を収録。巻末に各作家・作品を詳述する解説を附す。 〈『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』は、文学というレンズあるいはマイクを通して、21世紀のイタリアの諸側面を伝えてくれる。ここに読める作品はほぼ同時代に書かれたという点を除けば、それぞれ主題も文体もまったく異なっている。本書だけからでも、イタリア文学の「いま」がどれほど多様で豊かなものであるかがたしかに感じ取れる。これを機会に、ここに紹介された作家や他の作家たちの作品が翻訳されることを切望する。僕たちには海外の文学を読むことが必要なのだ。イタリアの「いま」を描く、あるいはイタリアで「いま」書かれているこれらの作品を読むことで、それをいわば鏡にして、日本の僕たちは自分自身の姿を見つめ直し、自分が生きる「いま」がどのようなところなのかを確認することができるからだ〉(序文より) 小野正嗣 序文 小野正嗣 雨の季節 パオロ・コニェッティ 関口英子訳 働く男 ジョルジョ・フォンターナ 飯田亮介訳 エリザベス ダリオ・ヴォルトリーニ 越前貴美子訳 ママの親戚/虹彩と真珠母 ミケーレ・マーリ 橋本勝雄訳 わたしは誰? イジャーバ・シェーゴ 飯田亮介訳 恋するトリエステ ヘレナ・ヤネチェク 橋本勝雄訳 捨て子 ヴァレリア・パッレッラ 中嶋浩郎訳 違いの行列/王は死んだ アスカニオ・チェレスティーニ 中嶋浩郎訳 隠された光 リザ・ギンズブルグ 橋本勝雄訳 あなたとわたし、一緒の三時間 キアラ・ヴァレリオ 粒良麻央訳 愛と鏡の物語 アントニオ・モレスコ 関口英子訳 回復 ヴィオラ・ディ・グラード 越前貴美子訳 どこか、安心できる場所で フランチェスカ・マンフレーディ 粒良麻央訳 作家・作品紹介 編者あとがき
「孤独はわたしそのもの。孤独に動かされてわたしは書いてきた」--ジュンパ・ラヒリ。歩道で、仕事場で、本屋で、バルコニーで、ベッドで、海で、文房具店で、彼の家で、駅で……。ローマと思しき町に暮らす45歳の独身女性、身になじんだ彼女の居場所とそれぞれの場所にちりばめられた彼女の孤独、その旅立ちの物語。大好評のエッセイ『べつの言葉で』につづく、イタリア語による初の長篇小説。
1950年秋。サルデーニャ島から初めて本土に渡った祖母は、「石の痛み」にみちびかれて「帰還兵」と出会い、恋に落ちる。いっぽう、互いにベッドの反対側で決して触れずに眠りながらも、夫である祖父には売春宿のサービスを執り行う。狂気ともみまごう人生の奇異。孫娘に祖母が語った禁断の愛の物語。遺された手帖と一通の手紙が、語られなかった真実をあきらかにする。ストイックさとエロティックさが入り混じった不可解な愛のゆくえと、ひとにとっての「書く」という行為の気高さをゆったりとした語り口で描きだす奥行きの深い物語。
腐敗と堕落を極めるグラドニア国の首都バネッサにある聖女チェレステ孤児院には、伝説の預言があった-昔、院を寄贈した伯爵の娘で10歳のチェレステが、非道な父親が引き起こした惨事で昇天し、その時遺したものだった。時は現代、孤児院のキリスト像がある日突然倒れ、預言の一つが現実となる。さらに孤児が三人、忽然と姿を消す。折しもその時、謎の人物が各国の悪童を集め、普通の反則なら何でもOKという摩訶不思議なストリートサッカー世界選手権を開こうとしていた…。