著者 : 中沢けい
印刷機と鯨の音「フィヨルドの鯨」。十代最後の夏が終わる「ティーンエイジ・サマー」。晩年を生きる少女の揺らめき「晩年の子供」。幼なじみが騎兵姿で「夕陽の河岸」。泥道の邂逅、遊郭の記憶「七夕」。文学碑をめぐる解説書簡「十七枚の写真」。あの戦友や慰安婦たちは「セミの追憶」。私とスパイはバスで東へ「光とゼラチンのライプチッヒ」。夢の中の犬の匂い「犬を焼く」。電話の主は海芝浦へ行けという「タイムスリップ・コンビナート」(芥川賞)。現代文学を俯瞰する第四巻。
ドイツを中心としたヨーロッパ各地に伝わる昔話をグリム兄弟に語ったのは、数多くの女性たちだった。本書はグリム兄弟の残した物語の中から有名な十一編を選び、原書に基づいたお話を、高村薫、松本侑子、阿川佐和子、大庭みな子、津島佑子、中沢けい、木崎さと子、皆川博子という現代女性作家八名が語り部となり再話したユニークな一冊。十九世紀ヨーロッパでグリム童話の普及に一役買った「一枚絵」を中心に、十九世紀〜二十世紀前半に描かれた挿絵の数々も、ふんだんに掲載。さらに四名の文学者によるエッセイ、明治時代に日本語訳された「おほかみ」も収録。
東京・麹町の古い屋敷に暮らす女ばかりの五人。昭和初めの生まれでお嬢さん気質の抜けない家付き娘・富子さん、その娘の美智子さん、ロリータファッションの孫娘・真由ちゃん、富子さんと長年ともに暮らしてきた大正生まれのきくさん、高齢出産で得た娘の紀美ちゃんもいてー世代様々、微妙な関係。戦後から、バブルの時代、そして現在ー世代それぞれの時間を生き抜く姿を、あたたかく見つめる長編小説。
高校時代からの女ともだち三人も堂々たる五十代。動物園へ繰り出して語り合う、それぞれの近況、人生のあれこれ。孫もできる、恋もできる!思いがけない感情を発見しながらアクティブに生きる日々を軽やかに綴る長編小説。
大学夜間部に通う主人公と二人の女ともだち。私は、十代で書いた小説が賞を受け、嘘のような生活をしていたが、そこに高校の後輩、隆子が転がりこむ。若い女性たちの生々とした光と影を見事に描ききり、「海を感じる時」で衝撃的なデビューを飾った著者の豊かな感性が弾けた中篇小説。短篇「アジアンタム」も収録。
宇佐子は小学校5年生。転校生のちょっと変わった女の子ミキちゃんを仲間はずれにするクラスの空気に傷ついて、夏休みを前に学校にいけなくなった。そんな中、ミキちゃんに誘われ、町のウィンド・オーケストラでトランペットを習うようになった宇佐子は、ブラスの楽しさ、演奏の喜びにふれて、次第に生き生きした心を取り戻していく。きらめく音があふれる、感動の長編小説。
十代で書いた小説が賞を受け、まるで空想か嘘のような環境にいる“私”のもとに、高校の後輩で砲丸投げに凝っていた隆子が転がり込み、奇妙な同居生活を営み始める…。若い女性たちの光りと影をいきいきと描いた話題作。
元赤坂の芸者だった老女が、昔の男の突然の再訪に心揺れ、幻滅する心理を描く「晩菊」。女流文学者賞受賞。戦死した夫の空っぽの骨壺に、夜の女が金を入れる「骨」。荒涼とした、底冷えのするような人生の光景と哀しみ。行商の子に生まれ、時代の激動を生きた作家林芙美子が名作『浮雲』連載に至る円熟の筆致をみせた晩年期の「水仙」「松葉牡丹」「白鷺」「牛肉」等、代表作6篇。
久野冴子は仕事を持ち都会で生きるひとり暮しの若い女性。春夏秋冬の季節の移ろい、淡淡と過ぎていく日々のなかで、妻子ある男性やかつての同級生の男友達との秘やかな関係が、彼女の心に目に見えぬほどの影をおとす。大部分を水面下に隠して水に浮かぶ船の喫水のように、ひとりの女性の日常の喫水を描くことで、水面下にひそむ人間の意識や感情の大きな移ろいを細やかな筆で浮き彫りにする会心の長篇小説。