著者 : 五味康祐
豊臣秀次の剣の師で「夢想剣」を名乗る瀬名波幻雲齋とその娘・ゆき、そして幻雲齋が父の仇でありながら、門下生となって修行を積む松前哲郎太重春。奇妙な3人の絆は、やがて哲郎太とゆきが契りを結ぶまでに深まっていく。そんななか、哲郎太は身重のゆきを残して武者修行の旅に出ようとするがー。第28回芥川賞に輝いた出世作「喪神」のほか、柳生流新陰流正統を継いだ連也斎とライバルとの決闘を描く「柳生連也齋」、剣豪が巨人軍の強打者として大活躍する異色作「一刀齋は背番號6」など、剣を題材にした珠玉の11篇。
蕎麦切りの名人だったお園は不貞を疑われ、奉公先を追い出されて…(「蕎麦切おその」)。女太夫が本気で惚れた乞食侍は花火造りに打ち込むが(「火術師」)。想いを寄せる下駄屋の倅は彼女の気持ちにてんで気づいてくれず(「下駄屋おけい」)。日本一の刀鍛冶になるべく全てを捨てた男を待っていた悲劇とは(「名人」)。職人たちの矜持が導く男と女の運命ー。きらり技輝る、落涙小説六編を精選。
三巻からなる「柳生武芸帳」。この行方を追い求める大目付の柳生但馬守宗矩を筆頭とする江戸柳生の門弟たち。そして柳生とは長年対立していた陰流・山田浮月斎一派が同じく武芸帳を追う。佐賀の竜造寺家再興を企てる夕姫たちも複雑に絡んでいく。一体、武芸帳に記されている秘密とは?五味康祐の最高傑作が遂に文春文庫に登場。
武芸帳に隠された秘密とは、どうやら、宮中に於ける某重大事件に係わるものらしい。事が公になれば柳生宗矩の破滅はむろんのこと、徳川幕府も無傷ではない。次々と仆れる柳生の高弟たち。大久保彦左衛門や松平伊豆守信綱も加わり、複雑怪奇の様相を帯びてくる。そして遂に宗矩と浮月斎の直接対決を迎える…。
三日月城・森家に伝わる白い秘玉には、白蛇を誘う妖気がこめられ、凶事を招くと伝えられていた。最初に玉を手にした森蘭丸は本能寺の変に果て、次に得た者も災いに見舞われた。その秘玉が盗まれた。参勤交代の折、将軍綱吉に帯同を命じられた矢先のことだった。ついで森家の家臣が次々と斬殺された。陰には隻腕の武士の姿が。謎の武士が携える蛇彫の小太刀と秘玉の妖しの縁とは(表題作)。傑作時代小説集。
変転きわまりない戦乱の世に、満々たる野望と闘志で天下を窺い、京へ上る野武士の一団があった。満身創痍の豪放な武士・中西太兵衛、その太兵衛に兄事を誓った美丈夫・豊田小隼人を先頭に、同道を願い出た牢人達がつづく。時は永禄元年、織田信長二十五歳、徳川家康十七歳、上杉謙信二十九歳の頃である。名将ひしめく戦国時代の歴史を塗替えたかも知れぬ男達の数奇なる運命を描く本格的長篇時代小説。
旗本屋敷で家来が斬殺された。手に握られていたのが“いそぎしたため参らせ…”との巻き文の断片。手跡は典雅、古風。この文の主は?目付の依頼で文を手にしたまん姫様、莞爾と微笑み、自信をこめて下した鑑定はー、最高の教養をもつ女性、恐らくは遊廓の太夫か。推測が的中し、面会した式部太夫は、だが何も語ろうとしない(第一話艶書)。将軍ご息女、美貌の姫君のやんちゃ捕物帖。
元治元年夏、京・祇園の料亭に集った勤皇浪士の中に、小柄で色白、剃髪頭の物静かな男がいた。河上彦斎ー近藤勇、中村半次郎と並び恐れられた剣客だ。この夜の会合で、“佐久間象山を暗殺すべし”が多数を占め、ならば自分が、と彦斎は自ら決していた。宴がひけての帰途、彦斎は若い芸妓に声をかけられ、妓の自宅に誘われる。そこで彦斎は奇妙な依頼をうける…。巨匠の時代長篇。
ボールは観衆の敬虔な祈りに充ちた空を、はるかに左翼へ消えた。奇想天外、荒唐無稽、やがては、予定調和の織りなすめくるめく快感の物語。昭和30年、こんな小説が存在した。時代小説+野球小説。
武辺に生きる奥義を「五輪書」に託し、巷説、幾多の決闘譚を生んだ剣豪・二天宮本武蔵。真筆の襖絵は今日も墨痕鮮やかだが、その生涯に謎は多い。足利将軍家指南・吉岡憲法を蓮台野に屠り、洛東一乗寺村下り松で吉岡一門の挑戦を一蹴した“武蔵”像に、二つの若き影が重なる。播州浪人・岡本武蔵、作州浪人・平田武蔵。二人の剣客の交錯するところ、“武蔵”の足跡が記されていった。五味剣豪小説の代表的名作。
頃は天保。甲府に入った男たちがいる。戸田流宗家の老武者・藤木道満。武者修業中の島田虎之助。白面の貴公子・本多左近。なぜか道満は仙台黄門と呼ばれ、助さん、格さんという2人の壮漢を従えている。黄門一行が絹商人和泉屋に逗留中、当の和泉屋が斬り殺された。城下には白覆面の剣士の仕業という噂が流れ、道満一行の姿が消えた。この騒乱に島田虎之助も巻き込まれて…。長篇剣豪小説。
江戸を目指す島田虎之助の心中には和泉屋の無残な姿があった。犯人と噂された白覆面の剣士は本多左近か?仙台黄門か?そもそも黄門を名乗って諸国を廻遊する老武芸者・藤木道満の目的は何か。謎は深まり、道満の野望を秘めた密書をめぐって人斬り勘斎が疾駆し、芸妓竹千代が舞う。東海道を往く道満の前に立ちはだかる風流使者とは…。時代の夜明けを前に散っていった剣士たちを描く長篇剣豪小説完結篇。