著者 : 京極夏彦
揺るぎ無いはずの「日常」が乱れる時、人は心の奥に潜む「闇」と直面する。意識の底に産まれた「妖怪」が精神を喰らう。女の手を忌む教師。十糎ほどの小さな女を幻視する病気がちの女。自分を覗く視線に恐怖する職人。煙に憑かれた火消し。海を厭う私小説作家。人が出合う「恐怖」の形を多様に描き出す怪異譚ー。
日常が、安寧が、心が、人が、闇に呑まれていくーー。存在せぬはずのきょうだいの影に懊悩する管財人。性欲に惑う刑事。名状しがたいうしろめたさに囚われる老婆。魚の目に憧れる無欠の薔薇十字探偵。自己の揺らぎとともに立ち現れる「畏怖」が「怪異」へと姿を変える。妖怪小説第弐集が講談社ノベルスに初登場。
泉鏡花、岡本綺堂、江戸川乱歩ら怪異の文豪を深く魅了し、怪談実話の分野においても、『日本霊異記』の昔から稲川淳二の「生き人形」に至るまで、読む者の心胆を寒からしめる逸話を数多生み出してきた「人形/ヒトカタ」。 なぜ人は、みずからの似姿に、かくも惹かれてやまないのか。ときに苛烈に呪詛や祈願を込め、ときに諸共に舞い踊るのか──。 古今の怪談文芸において、変わることなく重要なモチーフとなってきた「人形/ヒトカタ」の恐怖と魅惑に、『幽』ではさまざまな角度から肉迫いたします。特集内では、山岸凉子氏のインタビューをはじめ、グラビアでは中川多里の人形写真と皆川博子の書き下ろし掌編による豪華コラボ企画や、人形作家の百鬼ゆめひな氏のインタビューも掲載。 他、有栖川有栖、山白朝子、恒川光太郎、福澤徹三、安曇潤平、諸星大二郎、高橋葉介、柴門ふみ、押切蓮介など、小説、実話、漫画人気連載、インタビュー多数。
雨が降りしきる夜道でうずくまる女に遭遇した、実直な武士のUさん。20年便所から出てこなかった商家のIさん。酒好きのMさんと一人娘を心配して狐に相談した女房の幽霊。猫になったYさんの母親。さらには、「稲生物怪録」や「播州皿屋敷」にまつわる裏話など、江戸時代の旗本・根岸鎭衞が聞き集めた随筆集『耳嚢』から怪しい話や奇妙な話を選び、京極夏彦が現代の怪談実話スタイルに書き改める。新しく書かれた“旧い”怪談集。
世にありとある怪談は、文芸作品であれ映像作品であれ、「事実」と「虚構」を両端に据えた、面妖なるグラデーションのいずれかに位置づけられるはずだ。 その領域を、事実と虚構のボーダーランドと呼ぶことも可能だろう。近年、主に映像分野で注目を集めてきた「フェイク・ドキュメンタリー」もしくは「モキュメンタリー」は、そうした怪談本来の特性をいわば逆手にとることで、日常を切り裂き、現実を震撼させようとしてやまない、いかがわしくも魅力的なジャンルである。おりしも、それら映像作家の営為に挑発されるかのごとく、小野不由美の『残穢』を筆頭に、『幽』で連載中の京極夏彦『虚談』や辻村深月の最新刊『きのうの影踏み』など、虚実皮膜のあわいに果敢に踏み込む文芸作品も相次いでいる。 怪談という表現の本質を、いま一度、見つめ直すために──『幽』次号は「リアルか、フェイクか」というテーマで、怪談表現の過去と現在を総展望いたします。 特集 ◆浅田次郎『神坐す山の物語』ほかをめぐって 浅田次郎氏インタビュー 東雅夫 御嶽山(みたけさん)イベントルポ ◆論考 近世/近代/現代 小二田誠二「フェイク・ドキュメンタリーのルーツとしての江戸実録本をめぐって」 千街晶之「『リング』から『残穢』に至る怪談実話史をめぐって」ほか ◆復刻 平山盧江 ◆特別寄稿 福澤徹三 ◆インタビュー 『残穢』『鬼談百景』監督:中村義洋 ◆座談 NHKドラマ『怪異TV』制作秘話 ◆エッセイ 道尾秀介/花房観音/長江俊和/黒史郎 ◆連載 綾辻行人、小野不由美、京極夏彦、有栖川有栖、初野晴、朱野帰子、高橋葉介、諸星大二郎、柴門ふみ、波津彬子、伊藤三巳華ほか ◆インタビュー 辻村深月『きのうの影踏み』、田中康弘『山怪』ほか
僕が住む平屋は少し臭い。とくに薄暗い廊下の真ん中にある便所は臭く、そして怖い。ある日の夕暮れに、暗くて臭い便所へ向かうと……(「便所の神様」)。無職になった私は秩父にある実家に戻った。ただし私は家が好きになれない。得体の知れないシリミズさんが祀られている上に、中庭には変なモノが出る(「シリミズさん」)。暗闇が匂いたち、視界が歪み、記憶が混濁し、やがて眩暈をよぶ。京極小説の本領を味わえる8つの物語。解説は諸星大二郎。
特集 幽霊画大全 2015年夏、東京・上野の東京藝術大学美術館で史上空前の「幽霊画」展覧会(「うらめしや〜、冥途のみやげ展」)が開催されます。幽霊画所蔵で知られる全生庵と近代怪談文芸の開祖でもある三遊亭圓朝のコレクションを中心にした展覧会。そこで本誌でも幽霊画大特集を企画しました。怪談の原風景ともいうべき幽霊絵画と文芸との関わりを、人気作家や気鋭のアーティストによる寄稿・創作を交えて総展望いたします。 圓朝幽霊画コレクションをめぐって 鼎談 安村敏信×横山泰子×平井正修(全生庵住職) 史上初復刻! 鏑木清方「幽霊の絵」 国枝史郎「絵画と妖怪趣味」 ルポルタージュ 東雅夫「北陸幽霊画紀行」 エッセイ 私の愛する幽霊画 高橋克彦 藤野可織 中野京子 松浦だるま 金子富之「幻影写真画」+書き下ろし掌編 「心霊風景」 皆川博子 恩田陸 加門七海ほか 新企画 【小説】朱野帰子 【コラム】お化け好きフォーラム 小説連載 有栖川有栖/綾辻行人/小野不由美/山白朝子(乙一)/京極夏彦 他 実話連載 福澤徹三/中山市朗/松村進吉ほか 漫画連載 伊藤三巳華/高橋葉介/諸星大二郎/押切蓮介/花輪和一/柴門ふみ/漆原ミチほか エッセイ&書評&企画 加門七海/南條竹則/小池壮彦/安曇潤平ほか
昨年、没後110年を迎えたラフカディオ・ハーン/小泉八雲。節目の年にふさわしく、生誕地レフカダ島(ギリシア)での記念イベント、八雲ゆかりの地・松江(島根県)や焼津(静岡県)で記念行事が開催される一方、新たなコンセプトによる邦訳や舞台公演の試みが相次ぎ、曾孫にあたる小泉凡氏による『怪談四代記』が刊行されるなど、再評価の機運が高まっています。ハーン/八雲の名著『Kwaidan(怪談)』が刊行されたのは、1904年。創刊号以来の特集です。『幽』編集顧問 東雅夫
名作『百鬼夜行 陰』続篇、待望の初文庫 京極堂シリーズを彩る男たち、女たち。彼らの過去と因縁を「妖しのもの」として物語るスピンオフ・ストーリーズ第二弾。初の文庫化。
『姑獲鳥の夏』に始まる百鬼夜行シリーズ初の短編集 人にとり憑く妄執、疑心暗鬼、得体の知れぬ闇。それが妖怪となって現れる。『姑獲鳥の夏』ほか名作の陰にあった物語たちを収める。
オヤジ臭く、自他ともに認める嘘吐きの内本健吾。モテたいのに女子ウケしないことばがりをし続け、味のある面白さを持つお坊ちゃまの矢島誉。人心を掌握する術と場を読む能力に長け、偏った知識を持つ京野達彦。「馬鹿なことはオモシロい」という信条を持つ小学生男子三人組が繰り広げる、甘酸っぱい初恋も美しい思い出も世間を揺るがす大事件もないが、馬鹿さと笑いに満ちた日々を描く7編。
不器用さゆえか奉公先を幾度も追われた末、旗本青山家に雇われた美しい娘、菊。何かが欠けているような焦燥感に追われ続ける青山家当主、播磨。冷たく暗い井戸の縁で、彼らは凄惨な事件に巻き込まれる。以来、菊の亡霊は夜な夜な井戸より涌き出でて、一枚二枚と皿を数える。皿は必ずー欠けている。足りぬから。欠けているから。永遠に満たされぬから。無間地獄にとらわれた菊の哀しき真実を静謐な筆致で語り直す、傑作怪談!