著者 : 今村与志雄
唐宋伝奇の源流は六朝時代の怪異譚に求められるが、唐代になると、意識的に奇異なものを追求して曲折に富む複雑な筋立てにし、修辞も凝るようになる。こうして文学と呼ぶにふさわしい創作ジャンルが確立する。武田泰淳は、これを、ヨーロッパの近代的短篇にも劣らぬ、常に新しさを失わぬ芸術品の結晶であるといった。
『南柯の一夢』の主人公は官僚を嘲笑する自由人である。そういう男が役人になって栄達の限りをつくし、得意と失意をたっぷりと味わう。味わったところで夢からさめ、槐の根もとを掘るとどうだろう、夢みたとおりの小さな蟻の王国があったのだ。唐代伝奇の面白さは、幻想を追っているようで実は深く現実の人間の本質をついているところにある。(全二冊)
唐代伝奇小説の一篇である『遊仙窟』は奈良時代に伝来してわが国文学に多くの影響を与えた。しかし中国では早く散逸、その文学史的意義を認めたのが魯迅であった。本文庫は魯迅が序を寄せた川島校点本を底本とし、翻訳にあたっては敦煌文書の研究成果にも拠って、華麗な原文の趣きを伝えるべく努めた。巻末に貴重な醍醐寺蔵古鈔本の影印を付載。
収録作品 杜子春(牛僧孺) 杵,燭台,水桶,そして釜ーー元無有(牛僧孺) みかんの中の楽しさーー巴邛人(牛僧孺) 冥界からもどった女ーー斉饒州(牛僧孺) 同宿の客ーー辛公平上仙(李復言) 魚服記ーー薛偉(李復言) 赤い縄と月下の老人ーー定婚店(李復言) 則天武后の宝物ーー蘇無名(牛粛) 竜女の詩会ーー許漢陽(谷神子) 飛天夜叉ーー薛淙(谷神子) 白蛇の怪ーー李黄(谷神子) 碁をうつ嫁と姑ーー王積薪(薛用弱) 玻璃の瓶子ーー胡媚児(薛漁思) 女将とろばーー板橋三娘子(薛漁思) 山の奥の実家ーー申屠澄(薛漁思) 蒼い鶴ーー戸部令史妻(戴孚) 巨獣ーー安南猟者(戴孚) 鄭四娘の話ーー李(戴孚) 嘉興の綱渡りーー嘉興縄技(皇甫氏) 都の儒士ーー京都儒士(皇甫氏) 腕だめしーー僧侠(段成式) 旁とその弟ーー新羅(段成式) 葉限ーー中国のシンデレラ(段成式) 形見の衣ーー陳義郎(温庭筠) 再会ーー楊素(孟棨) 崔護と若い娘ーー崔護(孟棨) 麺をとかす虫ーー消麺虫(張読) 李徴が虎に変身した話ーー李徴(張読) 崑崙人の奴隷ーー崑崙奴(裴鉶) 空を飛ぶ侠女ーー聶隠娘(裴鉶) 女道士魚玄機ーー緑翹(皇甫枚) 犬に吠えられた刺客ーー李亀寿(皇甫枚) 詩人の男伊達ーー張祜(馮翊子) 奇譚二則ーー画工・番禺書生(逸名) つばめの国の冒険ーー王榭(逸名) 真珠ーー狄氏(廉布) 日銭貸しの娘ーー大桶張氏(廉布) 居酒屋の女ーー呉小員外(洪邁) 壁に書かれた字ーー太原意娘(洪邁) 怪盗我来也ーー我来也(沈俶)
白い猿の妖怪ーー補江総白猿伝(無名氏) 倩娘の魂ーー離魂記(陳玄祐) 邯鄲夢の枕ーー枕中記(沈既済) 妖女任氏の物語ーー任氏伝(沈既済) 竜王の娘ーー柳毅(李朝威) 紫玉の釵ーー霍小玉伝(蒋防) 南柯の一夢ーー南柯太守伝(李公佐) 敵討ちーー謝小娥伝(李公佐) 鳴珂曲の美女ーー李娃伝(白行簡) 夢三題ーー三夢記(白行簡) 長恨歌物語ーー長恨歌伝(陳鴻) 鶯鶯との夜ーー鶯鶯伝(元稹)