著者 : 吉田修一
レコードのA面・B面のように、ひとつのストーリーを2人の別主人公の視点で綴った短編12編。たとえば、宅配便の荷物を届けた男と受け取った男の扉をはさんだ悲喜こもごも、バーで出会った初対面の男女、それぞれに願いを叶え合おうといった男の思惑、応えた女の思惑など…。出来事や出会いが立場の違い、状況の違いでどう受けとめられるのか、言葉と言葉の裏にあるものが描かれた不思議な一冊。
公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。
三村の家では毎晩が酒盛りだった。若い男どもが、風呂上りのからだに下穿き一つで出入りする大家族。男たちの肌の火照り、女たちの熱い息。駿と悠太は幼い頃から、性と暴力の渦の中にいたー少年たちに深い印象を残してゆく幾人もの男たち。強い引力を感じながらも、少年たちは、彼らとは違う男に育ってゆく。
「…最初がメールだったから仕方ないのかもしれないけど、なんかずっと、お互い相手を探ってるっていうか…。信じようとは思うのに、それがなかなかできないっていうか…」亮介の声を聞きながら、美緒は窓辺に近寄った。「ほんと、なんでだろうね?」東京湾岸を舞台にきらめく、寄せては返す強く儚い想い。芥川賞、山本賞受賞作家が紡ぐ、胸に迫るラブストーリー。
大工の大輔は子連れの美女、真実と同棲し、結婚を目指すのだが、そこに毎日熱帯魚ばかり見て過ごす引きこもり気味の義理の弟・光男までが加わることに。不思議な共同生活のなかで、ふたりの間には微妙な温度差が生じて…。ひりひりする恋を描く、とびっきりクールな青春小説。表題作の他「グリンピース」「突風」の二篇収録。