著者 : 吉行淳之介
芥川賞史上唯一、兄妹で受賞した吉行淳之介と理恵ー 二人の稀有な資質を示す受賞作二篇とそれぞれの選評を全文収録。 ほかに淳之介「鞄の中身」、理恵「海豹」、 兄と妹への想いを綴った吉行和子のエッセイを併載。 ・驟雨 -吉行淳之介 第三十一回芥川賞選評 石川達三/佐藤春夫/宇野浩二/舟橋聖一/丹羽文雄/川端康成/瀧井孝作/第三十一回芥川賞銓衡経緯 ・鞄の中身 -吉行淳之介 ・小さな貴婦人 -吉行理恵 第八十五回芥川賞選評 安岡章太郎/丸谷才一/大江健三郎/吉行淳之介/中村光夫/遠藤周作/丹羽文雄/井上靖/瀧井孝作/開高健/第八十五回芥川賞銓衡経過/受賞のことば・吉行理恵 ・海豹 -吉行理恵 ・兄と私/妹のこと -吉行和子 吉行淳之介・理恵略年譜
【2025年5月現在、新本が定価(2,600円+税)で購入可能】 「私たちの行手に、また廃墟が現れてきた。」(「廃墟の眺め」より) 忍び寄る不安。胸にともる灯。世界の底から響く音。驚くほど詩的で繊細、かつ感覚的でなまめかしい吉行淳之介の傑作短篇集。 安岡章太郎、遠藤周作らと共に「第三の新人」と呼ばれ、性文学の旗手でもあった吉行淳之介の作品には、無頼派と近しいニヒリズムがあった。その心象風景は静謐で、廃墟のように寒々としている。敏感すぎる神経が不吉な妄想を招き寄せる。妄想が妄想を生み、しだいに現実を侵食していく。どこかにひと筋の光はないか。魂が叫びをあげる。 衝撃的な処女作「薔薇販売人」から、人の心の底知れなさと人間関係の怖さをえぐった「人形を焼く」「出口」、優しく切ない「寝台の舟」「香水瓶」、神経がひりひりするような病気小説の数々、全集未収録の生々しい妄想譚「食欲」「梅雨の頃」、戦後の荒廃と重なる心の廃墟を映す「廃墟の眺め」まで、ヴァラエティに富む吉行文学の精粋、全17篇。 ※七北数人氏を監修者に迎えた「シリーズ 日本語の醍醐味」は、“ハードカバーでゆったり、じっくり味わって読みたい日本文学”をコンセプトに、手に汗握るストーリーではなく、密度の濃い文章、描写力で読ませる作品、言葉自体の力を感じさせる作品を集成してゆきます。 薔薇販売人 祭礼の日 治療 夜の病室 重い軀 梅雨の頃 人形を焼く 寝台の舟 鳥獣虫魚 島へ行く 食欲 家屋について 出口 技巧的生活(序章) 錆びた海 香水瓶 廃墟の眺め 解説/七北数人
幼年期の回想、戦中戦後の生活、様々な病苦、代表作執筆の経緯ーー性の深淵を小説で探求しつつ多面的に活躍した芸術家の文学的自伝。 わが文学生活 あとがき 解説 徳島高義 年譜 久米 勲
押さえておくべき古典から、人気作家による知られざる名品まで、短・掌編を精選。軽快な作品から始まり、歯ごたえのあるどっしりした佳作まで、飽きずに読ませる自慢のセットリスト。(解説/池上冬樹)
吉行文学の真骨頂、繊細な男の心模様を描く 戦後の混沌とした時代、男は安定を求めて大会社のサラリーマンとなった。 だが、人員整理でクビとなり退職金を受け取った日、ヌードモデル志望の少女と出会う。丸顔に濃い化粧、大きな頭でアンバランスな躰の彼女にやがて愛憐の情が湧きはじめるーー。 空虚感を纏いながらこの時代を生きていく男と雑誌編集者の友人との交流、戦禍に散った友人への回顧など、卓越した心理描写で綴られた珠玉の作。 他に「水族館にて」「白い神経毬」「人形を焼く」の短編3作品を収録。
青春=戦時下だった吉行の半自伝的小説 昭和19年8月ーー、僕に召集令状が届いた。その後の入営は意外な顛末を迎えるが、戦時下という抑圧された時代、生と死が表裏一体となった不安を内包し、鬱屈した日々を重ねていく。まさしく「焔の中」の青春であった。 狂おしいほどの閉塞感の中にあっても、10代から20代の青年らしい友人との、他愛のない会話、性への欲望、反面、母への慕情など巧緻な筆致で描かれる。また、戦争とは一線を引いたかのような、主人公の透徹した眼差しと、確固たる自尊心は一貫しており、吉行自身のメンタリティが垣間見える、意欲作である。
1975年以降に発表された名作を5年単位で厳選する全8巻シリーズ第2弾。現代小説は40年間で如何なる変貌を遂げてきたのかーー
単行本『赤い歳月』から2篇、『菓子祭』から13篇、さらに、文庫初収録の名篇『夢の車輪』から全12篇、計27篇の秀作集。現実と夢の壁を、あたかもなきがごとく自在に行きかい、男と女との“関係”などを鋭く透写する硬質な作家の“眼”。『砂の上の植物群』、『暗室』、『鞄の中身』の達成の上に立つ、短篇の名手、吉行淳之介の冴えわたる短篇群の“かがやき”。
白内障にかかった自分の目玉をプラスティックの人工水晶体にとりかえる大手術。その模様を、焦燥とも悲愴感とも無縁な、子供のような好奇心でクールに眺める作家の視線ー。読者の意表をつき、ユーモアさえ感じさせる表題作のほか、鋭利な感性で研磨された過去の記憶が醸しだす、芳醇な吉行文学の世界。7編収録。
三題噺とは客席からの出題に即席で演じる窮極の話芸。すこぶるつきの美女からお題を頂戴、文学界の真打連中が高座ならぬショートショートで腕をふるいます。吉行淳之介から村上春樹、高橋源一郎ら若手まで20人が、起承転結の妙、かくし味をピリッときかせて、読みごたえ十分。さて勝負はいかが?
結婚生活に失敗した独り暮しの作家矢添と画廊で知り合った女子大生紀子との奇妙な交渉。矢添の部屋の窓下に展がる小公園、二台の揺れるブランコ。過去から軋み上る苦い思い出…。明晰・繊細な文体と鮮やかな心象風景で、一組の男女の次第に深まる愛の〈かたち〉を冷徹に描きあげ人間存在の根本を追求する芸術選奨受賞作。
屋根裏部屋に隠されて暮す兄妹、腹を上にして池の底に横たわる150匹のメダカーー脈絡なく繋げられた不気味な挿話から、作家中田と女たちとの危うい日常生活が鮮明に浮かび上る。性の様々な構図と官能の世界を描いて、性の本質を解剖し、深層の孤独を抽出した吉行文学の真骨頂。「暗い部屋」の扉の向こうに在るものは……。 屋根裏部屋に隠されて暮す兄妹、腹を上にして池の底に横たわる150匹のメダカーー脈絡なく繋げられた不気味な挿話から、作家中田と女たちとの危うい日常生活が鮮明に浮かび上る。性の様々な構図と官能の世界を描いて、性の本質を解剖し、深層の孤独を抽出した吉行文学の真骨頂。「暗い部屋」の扉の向こうに在るものは……。谷崎賞受賞。
見知らぬ女がやすやすと体を開く奇怪な街。空襲で両親を失いこの街に流れついた女学校出の娼婦あけみと汽船会社の社員元木との交わりをとおし、肉体という確かなものと精神という不確かなものとの相関をさぐった『原色の街』。散文としての処女作『薔薇販売人』、芥川賞受賞の『驟雨』など全5編。性を通じて、人間の生を追究した吉行文学の出発点をつぶさにつたえる初期傑作集。