著者 : 吉行淳之介
芥川賞史上唯一、兄妹で受賞した吉行淳之介と理恵ー二人の稀有な資質を示す受賞作二篇とそれぞれの選評を全文収録。ほかに淳之介「鞄の中身」、理恵「海豹」、兄と妹への想いを綴った吉行和子のエッセイを併載。
父母祖父母の思い出、敗戦後の生活困窮と編集記者稼業、小説家としての出発、常に身近だった病、性の探究、成長期のジャーナリズムにおける活躍と葛藤、「第三の新人」を筆頭とする多彩な交友ー自ら構成したインタビューと対談により文学創造の深淵と作家生活が浮き彫りになる。初の文庫化。
愛だけでは生きていけない。だけど、愛がない人生はつまらない。人生にうるおいを、読書にも愛を。一口に愛といってもその形はさまざま。異性への愛、兄弟愛、祖国愛etc.収録作品のジャンルも純文学から恋愛小説、時代小説までバラエティ豊か。笑える話も、泣ける話もあって、楽しみ方いろいろ。「愛」をきっかけに、豊かな読書ライフを始めてみては?短掌編あわせて19本、自信と信頼のラインナップ。
吉行文学の真骨頂、繊細な男の心模様を描く。戦後の混沌とした時代、男は安定を求めて大会社のサラリーマンとなった。だが、人員整理でクビとなり退職金を受け取った日、ヌードモデル志望の少女と出会う。丸顔に濃い化粧、大きな頭でアンバランスな躰の彼女にやがて愛憐の情が湧きはじめるー。空虚感を纏いながらこの時代を生きていく男と雑誌編集者の友人との交流、戦禍に散った友人への回顧など、卓越した心理描写で綴られた珠玉の作。他に「水族館にて」「白い神経毬」「人形を焼く」の短編3作品を収録。
海の臭気と耳に差した左手小指「泥海」。私小説の超克、生と死と自然の混淆「みな生きものみな死にもの」。特別料理に漂う不穏な気配「菓子祭」。変貌した町で知人宅に赴く私は…「鯊釣り」。研究室への辞表と乳房を巡る「独身病」。一個のサラリーマンと夏の夢「杞憂夢」。魚雷艇訓練所の長い一日「湾内の入江で」。僕がプールで視る禍々しい幻影「泳ぐ男ー水のなかの「雨の木」」。江戸の腕利き大工が星舟で鎌倉へ「きらら姫」。現代小説四〇年を辿るシリーズ第二巻。
単行本『赤い歳月』から2篇、『菓子祭』から13篇、さらに、文庫初収録の名篇『夢の車輪』から全12篇、計27篇の秀作集。現実と夢の壁を、あたかもなきがごとく自在に行きかい、男と女との“関係”などを鋭く透写する硬質な作家の“眼”。『砂の上の植物群』、『暗室』、『鞄の中身』の達成の上に立つ、短篇の名手、吉行淳之介の冴えわたる短篇群の“かがやき”。
白内障にかかった自分の目玉をプラスティックの人工水晶体にとりかえる大手術。その模様を、焦燥とも悲愴感とも無縁な、子供のような好奇心でクールに眺める作家の視線ー。読者の意表をつき、ユーモアさえ感じさせる表題作のほか、鋭利な感性で研磨された過去の記憶が醸しだす、芳醇な吉行文学の世界。7編収録。
三題噺とは客席からの出題に即席で演じる窮極の話芸。すこぶるつきの美女からお題を頂戴、文学界の真打連中が高座ならぬショートショートで腕をふるいます。吉行淳之介から村上春樹、高橋源一郎ら若手まで20人が、起承転結の妙、かくし味をピリッときかせて、読みごたえ十分。さて勝負はいかが?
結婚生活に失敗した独り暮しの作家矢添と画廊で知り合った女子大生紀子との奇妙な交渉。矢添の部屋の窓下に展がる小公園、二台の揺れるブランコ。過去から軋み上る苦い思い出…。明晰・繊細な文体と鮮やかな心象風景で、一組の男女の次第に深まる愛の〈かたち〉を冷徹に描きあげ人間存在の根本を追求する芸術選奨受賞作。
屋根裏部屋に隠されて暮す兄妹、腹を上にして池の底に横たわる150匹のメダカー脈絡なく繋げられた不気味な挿話から、作家中田と女たちとの危うい日常生活が鮮明に浮かび上る。性の様々な構図と官能の世界を描いて、性の本質を徹底的に解剖し、深層の孤独を抽出した吉行文学の真骨頂。「暗い部屋」の扉の向こうに在るものは…谷崎賞受賞作。
見知らぬ女がやすやすと体を開く奇怪な街。空襲で両親を失いこの街に流れついた女学校出の娼婦あけみと汽船会社の社員元木との交わりをとおし、肉体という確かなものと精神という不確かなものとの相関をさぐった『原色の街』。散文としての処女作『薔薇販売人』、芥川賞受賞の『驟雨』など全5編。性を通じて、人間の生を追究した吉行文学の出発点をつぶさにつたえる初期傑作集。