著者 : 大森望
時間旅行の無理がかさなり過労に陥ったネッドは、二週間の絶対安静を命じられるが、レイディ・シュラプネルのいる現代ではゆっくり休めるはずもない。そこで、指導教官ダンワージー教授はネッドをのどかな19世紀ヴィクトリア朝へ派遣する。だが、時間旅行ぼけでぼんやりしていたネッドは、自分に時空連続体の存亡を賭けた任務があるとは夢にも思っていなかった…ヒューゴー賞・ローカス賞受賞の時間旅行ユーモア小説。
奇妙な噂がささやかれる映画館があった。隣に座ったのは、体をのけぞらせ、ぎょろりと目を剥いて血まみれになった“あの女”だった。四年前『オズの魔法使い』上映中に一九歳の少女を襲った出来事とは!?(『二十世紀の幽霊』)そのほか、ある朝突然昆虫に変身する男を描く『蝗の歌をきくがよい』、段ボールでつくられた精密な要塞に迷い込まされる怪異を描く『自発的入院』など…。デビュー作ながら驚異の才能を見せつけて評論家の激賞を浴び、ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家協会賞の三冠を受賞した怪奇幻想短篇小説集。
オックスフォード大学史学部の学生ネッド・ヘンリーは、第二次大戦中のロンドン大空襲で焼失したコヴェントリー大聖堂の再建計画の資料集めの毎日を送っていた。だが、計画の責任者レイディ・シュラプネルの命令で、20世紀と21世紀を時間旅行で行ったり来たりさせられたネッドは、疲労困憊、ついには過労で倒れてしまった。シュラプネルから、大聖堂にあったはずの「主教の鳥株」という花瓶をぜひとも探し出せと言われていたのだ。二週間の絶対安静を言い渡されたものの、シュラプネルのいる現代にいては、ゆっくり休めるはずもない。史学部のダンワージー教授は、ネッドをのんびりできるにちがいない、19世紀のヴィクトリア朝へ派遣する。ところが、時間旅行ぼけでぼんやりしていたせいで、まさか自分が時空連続体の存亡を賭けた重要な任務をさずかっているとは夢にも思っていなかった…。ジェローム・K・ジェロームのユーモア小説『ボートの三人男』にオマージュをささげつつ、SFと本格ミステリを絶妙に融合させ、ヒューゴー賞・ローカス賞のほか、クルト・ラスヴィッツ賞を受賞したタイムトラベル・ユーモア小説。
ちゃんと働いて給料をもらい、だれにも憎まれず、それを言うならだれにも好かれない。どこにでもいるそういう平凡な人間に不思議のひと触れが加わると…?表題作をはじめ、円盤は女になにを話したか?…魅力の結晶「孤独の円盤」、ベスト級のホラー「もうひとりのシーリア」、名高き「雷と薔薇」、少年もの代表作「影よ、影よ、影の国」、単行本初収録の「裏庭の神様」「ぶわん・ばっ!」、さらに幻のデビュー作「高額保険」ほか本邦初紹介の3篇を含む、全10篇を収録。
コンピュータとロボット群が相互接続した巨大ネットワーク『フィズウィズ』が世界を支配している未来。みんなは仕事をコンピュータとロボットまかせにして、あらゆる人生を3Dフルカラーの映像ホローで体験するだけ。でも、直接フィズウィズと脳を接続するエンジェルのヴァーナーは、そんな退屈な世界では我慢できない。クルトフスキ教授の発明した仮想場発生機を使って、ミクロとマクロの宇宙をめぐる冒険に出発した。
パリを拠点に人権保護活動を行なっているアムネスティ組織ABRIに、緊急の暗号メッセージが届く。イレブンはブルーになった。光の水。受信者はアフリカ地区担当のゼイン。「イレブンがブルーになった」とは、アフリカで情報を収集中だった親友のストリートが死んだことを意味していた。ストリートは政情の不安定なアフリカで、反政府主義者に対する拷問に手を貸した謎の医師を追っていた。ストリートは何者かの手によって暗殺されたのか?ゼインは事実を確認すべく、さらなる情報収集に着手した。だが、ストリートが愛人に宛てた手紙を入手した直後から、ゼインは何者かに命を狙われはじめる。さらに、ABRIの情報を漏洩していたとの容疑をかけられ、担当の仕事まで外されてしまう。事件調査の手段を断たれ、孤立無援となったゼインは、コンピュータ・ネットワークを駆使して陰謀の迷宮へと踏み込んでいくが…。
シリコンバレーの大企業でロボット開発に携わるジャージーは、ひょんなことからサイバースペースで一匹の蟻を目撃した。どうやら会社が研究中の人工生命プログラムが、彼のマシンに迷いこんだらしい。だが自力で進化し増殖するこの蟻が、試作品のロボットを乗っ取って世界を覆う光ファイバー網に侵入してしまったために、思いもよらぬ騒動が…!高度な機械知性の誕生をポップな感覚で描き出す近未来コンピュータSF。
伝説の男ジェイスン・ワーシングがこの世に生まれる遙か以前ー銀河帝国の首都キャピトルでは、人工冬眠薬ソメックが人々の関心を集めていた。ソメックを投与された人間は数年ごとに睡眠と覚醒を繰り返し、ほとんど永遠に生き続けることができるのだ。だがこの偽りの不死が、大いなる悲劇をもたらすことになろうとは…。長篇『神の熱い眠り』の背景となった壮大な宇宙史の全容を、数々の逸話を通じて描きあげた名品集。
あらゆる苦痛が瞬時に癒され、不幸や恐怖の存在しない世界ー少年レアドが暮らすその世界に突如「苦痛」が蔓延した朝、人々の前に不思議な男が現われた。男はジェイスン・ワーシング、伝説の神と同じ名の持ち主だった。その日からレアドは、一万五千年以上にわたるジェイスンの波瀾の人生を何度も夢に見るようになる。夢が進むにつれ、やがて明かされる宇宙創造の秘密とは。人気作家カードの原点といえる傑作SF長篇。
街に核爆弾が落ちた朝。男やもめのクリフォードは一念発起、恋人マーシャの家を訪れた。家出中の子供たちを連れ戻し、彼女と共に新しい家庭を築くことが彼の夢なのだ。だがなぜかマーシャの母親はこの結婚に猛反対。おまけに子供たちは怪しげなドラッグの作用で宇宙の彼方に飛ばされているらしい…。深刻化する核戦争もなんのその、あくまで家庭問題にこだわるクリフォードの奮闘を描くSFスラップスティック・コメディ。
無法者たちのパラダイス、フリーゾーンへようこそ。ここではドラッグは使い放題、税金はなし、他人に迷惑さえかけなければ何をやってもかまわない。ところが、お調子者のハッカーがタキオン発生機を作ってしまったために時空が大混乱。巨大カタツムリ、未来のロボット、ナチの突撃隊などが入り乱れ、ただでさえハチャメチャなこの街を史上最大最悪の大戦動に巻き込んでしまう…。ファン必読、大爆笑の痛快SFコメディ。
21世紀のロサンジェルス、FBI捜査官ベイリーはハイテク武器の闇取引を調べていた。やがてその捜査線上に航空宇宙研究所の研究員たちが容疑者として浮かんだ。地位にも給料にもめぐまれている科学者たちがなぜそんな犯罪にかかわっているのか?ベイリーはノーベル賞を受賞した天才コンピュータ科学者が黒幕であると突き止めたが…。バーチャル・リアリティとコンピュータの未来をサスペンスフルに描く傑作長篇SF。
16歳のシャーマン・ポッツは悩み多き高校生。ある日、ため息を23回ついた拍子に、なんと別世界の図書室に転相してしまった。しかも、それが魔法の図書室ときていた。そこで本を読めば、ドラゴン退治の騎士になるのも超能力者になるのも思いのまま、実際に物語のなかにはいりこんで冒険ができるのだ。現実世界の憂さを吹き飛ばせとばかりに、シャーマンはさまざまな本を試してみるが…。新鋭が贈るユーモア・ファンタジイ。
高度に道徳的な思想に支配され、近隣同士の相互監視体制までもがゆきとどいた近未来社会。とある調査代理店の青年社長アレンは、ある夜、自分自身にも理解できない衝動にかられ、この世界の偉人ストレイター大佐の銅像を密かに破壊するという“いたずら”に及ぶ。この事件は世界に波紋を広げるが、一方彼の周囲にも…。独特の筆でディストピアを描く、ディック本邦初訳長編。
一家でローマ旅行中のぼく、物理学者のアルウィンは、突如テロリスト集団に誘拐されてしまった。彼らの目的は、ぼくに核爆弾を作らせること。囚われの身となったぼくは、ひょんなことから不思議な球体を手に入れた。人間にエッチ効果をおよぼすこの“セックス・スフィア”が、実は異次元生命体で、とんでもない大騒動を引き起こすことになるとは、ぼくは知るよしもなかった…。あぶない鬼才ラッカーの超数学マッドSF。
大宇宙をさすらう宇宙海賊ロドロン・チャンは、銀河を人類と二分する異種族ストリールから掠奪した不可解な“レンズ”に見入っていた。そこには大仕掛けな映画のごとく、次から次へと様々な光景が浮かんでは消えていくのだ。しかもこのレンズは、連中にとって貴重極まりない品らしい。彼はいったい何を手に入れようというのだろう?ベイリーの処女長編にして遠大なる宇宙SF。
ジョン・ベアドはヘミングウェイを専門とする、しがない大学教員。常人離れした記憶力の持ち主であるが、絵に描いたような学者バカ。学内政治に疎く、学者として出世する望みはほとんどない。そんなある日、キーウェストのとあるバーで論文をしたためていた彼は、詐欺師のシルヴェスター・キャッスルメインと知り合いになり、ヘミングウェイの小説の贋作作りを持ちかけられる。ヒトラーの日記やハワード・ヒューズの自伝など過去にも贋作事件の例はある、うまくすれば一攫千金も夢ではないのだ。最初のうちは気が進まなかったベアドだったが、ベトナム戦争で負傷し創作に手を染めるなど、自身の人生をヘミングウェイの生涯に重ね合わせがちな彼は、いつしか我知らずのうちに贋作作りに没頭してしまう。だが夢中になってタイプライターを打つ彼の目の前に、なんとヘミングウェイその人が現われたことから、事態は意外な方向へ進展していくのだった。消失したヘミングウェイ作品の贋作でひと儲けをしようという悪だくみに、パラレル・ワールドの幻想をからめたライトなSFコメディの世界。ヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞。
舞台は〈嵐〉と呼ばれる大破壊の後の、はるか未来のアメリカ。そこではインディアンの末裔たちが過去の機械文明を失いながらも、一種の牧歌的ユートピア社会を形成していた。そうした集落の一つであるリトルビレアには、大小様々な部屋がさながら蜂の巣のように密集し、このは系、てのひら系、ほね系、といった系統に分かれた奇妙な一族が住んでいた。物語は〈しゃべる灯心草〉と呼ばれる少年の独白によって始められる。彼は少女を相手に、“聖人”になろうとして彷徨した自分の冒険譚を語り出すのであった。〈一日一度〉と呼ばれる美少女や、ドクター・ブーツと巨大な猫族の物語、そしてラピュタと呼ばれる天上都市と謎の水晶体の物語などなど…。本書は象徴と寓意に満ちた、アメリカのファンタシィ界の異才ジョン・クロウリーのSF代表作である。