著者 : 大沢正佳
のらくら者の大学生の語り手が執筆中の小説の主人公トレリスは、二十年も部屋にこもりきりの作家である。トレリスは自分が創造した作中人物を同じホテルに同居させ、監視下においているが、作中人物たちは自分の意志をもち作者の支配を脱して動きだし、物語は錯綜をきわめていく。小説の中の小説という重層的な語りの中にアイルランドの英雄伝説や大学生の日常を盛り込み、瑞々しい活力に溢れた豊饒な文学空間を創造した傑作。
20世紀初頭のアイルランドのダブリン、両親を早くに亡くして孤児となったメイナスとフィンバーの兄弟は、義理の伯父コロッピー氏に引き取られ、その家で暮らすことになった。友人の神父と議論にふけり、何やら重要なプロジェクトを画策中らしい変り者、コロッピー氏の独自の教育方針の下で二人は育てられるが、やがて兄メイナスは綱渡り術の通信講座というイカサマ商売を考案、怪しげな教本の出版販売や競馬のノミ行為など次々に事業を拡大し、ロンドンへと出て行った。その後、コロッピー氏が重い関節炎に悩んでいることを聞いたメイナスは、奇跡的特効薬“豊満重水”を贈って服用をすすめるが、この薬が思わぬ事態を引き起こすことに…。奇想小説『第三の警官』で知られるアイルランド文学の異才フラン・オブライエンの「真面目なファルス」小説。
ベートーヴェンの交響曲〈エロイカ〉の形式にのっとって、英雄ナポレオン・ボナパルトの波瀾万丈の生涯を描き上げる-音楽と文学を合体させた壮大な実験場が、この本である。1796年の第1次イタリア遠征、ジョゼフィーヌとの結婚を幕開けに、コミカルな独裁者、凡人の悩みをかかえた皇帝ナポレオンの姿を、エジプト遠征、ロシア遠征、エルバ島およびセント・ヘレナ島配流などを通じて“文学の交響楽”の中に浮彫りにする。英文学界にそびえる巨人バージェスの、文学性豊かな笑いと諷刺にあふれた、大胆不敵な長篇。