著者 : 大西巨人
本第四楽章をもって“連環体長篇小説”『地獄変相奏鳴曲』がついに完結。十五年戦争の時代をくぐり、敗戦・占領下の混乱、そして戦後の激動を生き抜いてきた、一組の老齢に達した夫婦が、周到な準備のもと、何ゆえ「情死」を選びとったのか?互いに敬愛する男女のなかに根づく“無神論的・唯物論的にして宗教的”な境地とはいかなるものか?日本人の現代および近未来の課題に果敢に挑戦した最終楽章「閉幕の思想」。
第一楽章「白日の序曲」の初稿発表より四十年の歳月を経て完成した「連環体長篇小説」-全四楽章のうち、旧作の新訂篇である第一楽章から第三楽章までを本書に収録。異姓同名の男女の織りなす四つの世界が、それぞれ独立した中篇小説でありながら、重層化され、ひとつの長篇小説となる。十五年戦争から、敗戦・占領下、そして現代にいたる、日本人の精神の変遷とその社会の姿を圧倒的な筆致で描破。
秘された“過去”を負う“被疑者”冬木二等兵の「不条理上申」と東堂二等兵の「意見具申」によってさしもの「剣〓事件」も終熄する。そして事態は、醜怪極まりない「模擬死刑事件」による東堂・冬木らの営倉入りを経て、小説の掉尾を飾るかのような大珍事によって急転回をとげる。…1942年4月24日午前9時55分、主人公東堂太郎二等兵の屯営への訣別と共に、4700枚の壮大なファルスも遂に完結する。
入営して、やがて3ヶ月目に入る。上官上級者によって仕掛けられる無理難題、“思想上の嫌疑”に対する東堂太郎の精妙かつ尖鋭な“合法闘争”はつづくー。「こういうことに血眼になっても、それにどんな意味があるのか、あり得るのか」懐疑に陥りながらも…。しかし一方、奇怪な「剣〓(けんざや)事件」の犯人と目されて窮地に立つ冬木二等兵救済のために「精一杯抗うべく」決意を固める。
「私の内面には、曖昧な不安が、だんだん増大しつつ定着していた。早晩必ず何事か異変が起こるにちがいない…。あたかもわれわれの前途に出現するべき禍禍しい何物かの確実な前触れとして…。」東堂太郎の抱く不安が内務班全体にも広がりはじめた頃を見はからうかのように、ついに“大事”が発生した。そして、その渦中に登場する冬木二等兵の謎めいた前身…。
東堂太郎の回想する女性との濃密な交情、日常的に交わされる珍妙な「金玉問答」や「普通名刺論議」…。内務班の奇怪な生活の時は流れる。そして、しのび寄る忌わしい“事件”の予兆。「私は“あるかすかな予感のような物”を見極めるためにも戦争に出かけようとしているのかも知れない…」。
日本第1の要塞島対馬に、補充兵役入隊兵数百人が上陸したのは、1942年1月のこと。「すでにして世界は真剣に生きるに値しない」と思い定めているニヒリスト東堂二等兵もその中の一人である。厳寒の屯営内で過酷な新兵“教育”が始まる。と同時に稀代の記憶力を駆使した二等兵の壮大な闘いも開始される。戦後日本が生んだ桁はずれに大きい“笑い”の文学巨篇登場。
約5000枚の画期的超大作『神聖喜劇』を25年の歳月をかけて書き、読書界に絶賛の嵐を呼んだ大西巨人が、今度は一転して掌編小説の秀作選を編んだ。樋口一葉から星新一まで、58作家の短編は、おおかた400字詰め原稿用紙にして15枚以内。全2巻に収めたこの選集は、近代日本文学を濃縮した“総集編”だ。
約5000枚の画期的超大作『神聖喜劇』を25年の歳月をかけて書き、読書界に絶賛の嵐を呼んだ大西巨人が、今度は一転して掌編小説の秀作選を編んだ。樋口一葉から星新一まで、58作家の短編は、おおかた400字詰め原稿用紙にして15枚以内。全2巻に収めたこの選集は、近代日本文学を濃縮した“総集編”だ。